HERO INTERVIEW / 松野賞

自分の手で、
正解を見つける。

日本気象学会2026年度春季大会において、筆保研究室(ふでけん)M1の東原拓哉さんが 『超水滴法を用いた台風環境場の積乱雲内の過冷却水滴に対する強制凍結実験』という  題目で発表し、松野賞を受賞した。

AWARD松野賞
CONFERENCE日本気象学会 (2026春)
INTERVIEW2026.09.24
01 / STORY
春季大会
最後の松野賞
松野賞とは、自身が主体的に行い、独創性が高く顕著な成果の得られた研究に関し、優れた発表をした学生を顕彰することを目的に、日本気象学会春季・秋季大会それぞれにおいて選定・授与するものである。

しかし、2027年度から春季大会はJpGUに統合されることに伴い、今大会が事実上最後の開催だった。また、今大会では、松野賞受賞者が1人だった。そのため、偶然ではあるが春季大会最後の松野賞受賞者となった。

偉大なふでけんOB・OGには松野賞受賞者が複数名いらっしゃるが、実は全員ふでけん卒業に受賞されており、今回初めての在籍者の受賞となった。
02 / INTERVIEW
挑戦の、その先へ。
QUESTION 01

今回の受賞を知ったとき、最初に何を思いましたか?

正直、オンラインだったこともあり、手ごたえみたいなのは特に無かったのですが、研究をまとめる段階に入っているタイミングでの発表だったので、完成度としてはそれなりに高かったと思います。だからといって、何か自信があったわけでなはいですが、話し手としては筋道がある程度しっかりしていたので話しやすくはありました。個人的には2回目の気象学会での発表で、M1の春というかなり早い段階でこのような賞をいただけたのは、大変嬉しかったです。

あと、個人的にもう1つ嬉しかったのが、今回はムーンショット(気象制御)のセッションでは無いなかで、気象制御研究そして超水滴法(SDM)を用いた雲微物理研究をご評価いただいたことです。ご指導いただいた吉田龍二先生、兵庫県立大学の島伸一郎先生・Manhal Alhilali博士、そして筆保弘徳先生のお力添え合ってのおかげです。本当にありがとうございました。

QUESTION 02

研究を進めるうえで心がけたこと・頑張ったことはなんですか?

「自分に嘘をつかないこと」です。今の時代、便利なツールがたくさんあります。もちろん、それを使いこなすことは大切です。でも、便利な道具に頼りすぎていて、自分のやっていることを自分で説明できなくなる時があります。例えば、数値モデルを使っているのに、その数値モデルがどういう理学理論に基づいて構成されているのか、他のモデルとの共通点・相違点は、といった基本的なことにすら答えれないといったようなことです。解析のコード1つとってもそうです。バイブコーディングが当たり前の時代で、プロのエンジニアも自力でコーディングしている人なんでもういません。ですが、ツールを使って生成してもらったコードを読むことはできます。僕自身も今は書きはしませんが、必ず読んでいますし、その内容を説明することはできます。この辺を妥協することは簡単です。道具もよくできているので、それなりに間違うことはありません。なので、他の人に嘘をつくことも容易です。でも、絶対に自分には嘘をつけません。僕は自分に嘘は付きたくないから、自分のプロダクトはすべて自分で説明できるようになりたいと思って、必死に勉強しましたし、自分ができないことを自分自身が一番分かっていると思います。だから、僕が僕の研究に一番厳しいreviewerだと思っています笑

だから、頑張ったこととしてはやはり努力を惜しまないことだと思います。ありきたりな表現かもしれませんが、でも僕の”努力”の意味は、単に勉強することではありません。人間は常に好きなことを学ぼうとする生き物です。それが知的好奇心につながります。ただ、残念なことに研究というフィールドにおいては知的好奇心だけでは良い成果は絶対にあげることはできません。嫌いな勉強、興味が無い勉強もやったうえで初めて自分の知的好奇心が成果に結びついていっていると思っています。学会、セミナー、勉強会、etc. 学ぶ機会は数多ありますが、正直多くの人特に学生はそれを選り好みしている印象があります。よく「自分には関係ない」「時間が無いから必要なものだけ」といった話を聞きます。実を言うと自分も最初はそうでした。しかし、研究は誰かに正解を教えてもらう仕事ではありません。自分の手で正解を見つけに行く仕事だと思っています。だからこそ、自分が努力する分だけ成果も出ますし、そこを怠ればどんなに他をハードワークしても良い成果は得られません。どう見ても今の自分に必要ない勉強会や指導教官に無理やり行かされた学会でも、後々役に立つことがよくありました。正直、当時は行くのが嫌でしたが、それでも行ったから今の自分があると思います。そういう意味では、不満ではありましたが、今では感謝しています笑

QUESTION 03

研究において大きな転機、とは何だったのでしょうか?

これは筆保先生に心から感謝していることなのですが、B3の時に秋学会に参加させていただいたことです。当時は研究室配属されてから半年ほどでプロジェクトにコミットできてもいなかったのですが、僕が直談判して特別につくばに行かせていただきました。本当は僕はB4で卒業して、気象会社に進もうと思っていました。当時は研究よりも予報に興味があり、ムーンショットは予報会社への就職の踏み台にしよう、とくらいに思っていたほどです笑

ただ、この学会が僕を研究の道に引っ張った大きな転換期でした。それまではふでけん以外の外の研究室を知らなかったので、研究とは指導教官から課題を与えられて期日までに結果を出すことだと思っていました。しかし、若手会で出会ったB4の人たちが、本当に楽しそうに自分の研究を語っていて、自分の興味・意欲で研究している姿があまりにも輝かしくて、そこから自分も研究に熱が入るようになりました。そこからはあっという間でしたね。我ながらそれまでと比べるととんでもないスピードで成長していったと思います。

QUESTION 03

今後の目標はありますか?

正直、この受賞は僕にとってはスタートだと思っています。研究は決して賞レースではないので、賞を取ることが偉いということは全くありません。一方で、研究というものは他者に認められて初めて価値を見出すものだと思っています。どんなに斬新でどんなに先駆的な内容であっても、それを他者に伝えることができなければ、その成果が日の目を見ることはできません。そういう点では、ある種今回初めて自分の研究を他者に伝えることができたといえるかなと思うので、まさにここからですね。

一番近場で言うと、今論文を書いているところなので、これをpublishするのが今の目標です。あとは目標ではないかもしれませんが、常に支えてくださる方への感謝は必ず忘れずにいたいと思っています。間違いなく一人では達成し得ないことばかりですので、共著者はじめ周りのみなさんへの感謝を日々伝えていけたらなと思います。(不器用ですが...)

QUESTION 04

次の受賞者に向けてメッセージをお願いします。

今回、このような栄誉ある賞をいただくことができましたが、特段僕がなにか優れていたとは到底思いません。ただ、唯一自信を持って言えるのが、間違いなく相当な時間をこのために費やしたということです。どのようなフィールドにおいても、残念ながら能力の差はあると思います。ですが、その差は努力でひっくり返すことができます。能力の差を理由にして諦めないでください。諦めていいのは努力した後です。努力しても叶わないなら、そのときに諦めればいいだけです。まずは、努力してみてください。

ただ、努力することが容易でないことも確かです。僕はB3のときに参加した秋学会がその転機でした。おそらくみなさんもそういう些細なきっかけにどこかで出会うはずです。そのときに覚悟を持つことができるかどうかが、ある意味運命の分かれ道だと思います。当然ですが、僕も最初は先が見えず不安でした。しかし、挑戦する覚悟を決めたその先に、進むべき道が待っていました。覚悟をしたからこそ、先が少しずつ見えてきたと思います。チャンスだと思ったそのときに、まよわず挑戦する覚悟をぜひ持ってください。

“
挑戦する覚悟を決めた
その先に進むべき道が待っている
— HERO INTERVIEW
03 / PROFILE
The Interviewee
東原 拓哉
YOKOHAMA NATIONAL UNIVERSITY

東原 拓哉 (Tobara Takuya)

横浜国立大学大学院先進実践学環。『ムーンショット型開発制度』目標8の筆保プロジェクトのメンバーとして、人為的介入による台風・豪雨制御手法の確立を目指して、スーパーコンピュータ「富岳」を用いた数値シミュレーションの研究に取り組んでいる。(写真は日本気象学会会長竹見先生(左)から授与時に撮影。)