気象庁への道~Youはどうして気象庁に?
気象庁への道~Youはどうして気象庁に?




F.Tさんのスペック

・高校時代の物理のテストは5点(モーメント・剛体)
・大学時代の物理基礎の講義を落とす(高校で物理を履修していない人向け)
・物理基礎は微分方程式で単位取得(物理を勉強していた人向け)

そんな「物理?無理無理笑」な大学生が国家公務員を志し、気象庁に採用されるまでの道のり。




きっかけ


元々気象に興味はあった。ただ、大学生当時(今も?)の実力では気象を仕事にするなんて想像もできなかった。

大学の部活の大会で武道館へ行った時のこと。
「あれ、気象庁ってどこにあるんだ?」
調べたら「大手町」って駅が最寄りらしい。近い!行くしかねぇ!

初めて見た気象庁は壮大な雰囲気をまとっていて、厳重な警備がいて。
上のフロアは当然関係者しか入れないのだが、1Fの気象科学館(当時)には書類の記入さえすれば入れるようだ。

気象庁に入ってみての最初の印象は「せまいな」と。当時は狭い敷地の中にたくさんの資料が詰め込まれている感じの場所だった。
気象科学館は多くの観測機器や実験装置があって秘密基地のようだった。
休日だったので気象予報士のボランティアさんと話をすることができた。気象関係の仕事をされていらっしゃるかと思ったら違う職種で働いておられた。
見るもの聞くものすべて当時の自分には衝撃だった。

そんな「気象」の仕事を意識し始めたが、まだ「気象庁」の扉は開いていなかった。気象はまだ「趣味」だった。

再度気象庁の扉を叩いたのは大学4年の春、就職活動の時。院進は決めていたが実力が圧倒的に不足していたのでいざというときに内定をもらうというとの親との取り決めから。
たまたま上京した日に官庁の説明会があり、気象庁も開催していたので空いた時間に参加させてもらった。

説明会の途中で予報課(当時)仕事風景を一部見せてもらえることになり、廊下から見学させてもらった。
多くのモニターに台風や気象の情報が映っている光景を見て、今目の前で気象についての情報を多く扱っていること、
ここから全国に向けて気象情報が発信されていることを知り、自分もこの場で仕事をしたいと思い予報官を志すようになった。


公務員試験の大きな壁=物理


しかし、自分には一番の大きな壁があった。物理である。
気象庁の募集は国家一般職と国家総合職がある。技術系ではそれぞれ物理、数理科学・物理・地球科学という区分になっている。そう、物理が必須なのだ。
何を隠そう、高校でつまずいて以来物理とは距離を置きがちだったのだ。生半可な考えでは受かる気すらしない。

公務員試験のためただ勉強していては絶対に受からない。プランを立てることにした。実行力のなさが欠点だが。
院に進学してから公務員試験を受けることにした。
自分の実力では大学4年生の試験では到底間に合わない。気象系の研究室を希望していたので物理は勉強しておいて損はない。
ならば院試の勉強と物理の勉強を同時並行で行うことが望ましいと考え、ここから勉強の日々が始まった。


勉強って、どどどどうすれば?

問題は勉強方法である。
院進のため、学内の公務員講座は時期が良くない。そもそも技 術系は講座がない。
かといって学外の講座を受けている余裕もない。
気象庁は別の分野でも採用はあるのだが予報官の為には物理区分が望ましい。
結局独学で勉強することになった。


物理を勉強しまくれぃ


勉強はまず、高校時代の薄い本から始めてみた。基本ですら解けていない状態であった。
とにかく問題を解く。分からない問題は回答を確認し、その日のうちにもう一度解いてみる。
最初は全滅だったが少しずつ解ける問題も増えていった。高校レベルだが。
しかしこのペースでは間に合わない。どうする自分!


公務員試験の参考書選び

物理の参考書を求め古本屋へ。
元々書店は好きだったが新品の必要性はないと思ったからである。
そこで出会ったのは公務員試験のための本である。
もちろんここでも技術系はないので共通問題の本である。工学の基礎や自然科学系を購入した。
ついでに過去問も取り寄せてみた。手続きが面倒なので早めに申請することをオススメする。



公務員試験の対策

公務員試験はセンター試験の発展版のようなものであると解釈している。
一次試験は一般知能・一般知識を問う教養科目、それぞれの分野に分かれる専門科目、専門科目に対しての筆記試験が出題される。
一次試験をパスすると個別面接の二次試験に進み、最終的に公務員試験合格となる。
教養科目は文章理解、判断推理、数的推理、資料解釈、自然・人文・社会...つまりセンター試験の発展版ともいえるわけだ。
現代文や英文も出題されるし、歴史も出題される。生物の話題から時事問題まで問われる。範囲がとにかく広い

センター試験の発展版なら解けるかも?と思う人もいるかもしれないが、大学入学から3~4年が経過していると意外と忘れている。
そこに数的処理というセンター試験には見られなかったものも出てくる。対策は必須である。

自分は塾講師のアルバイトをしていたので高校生が解く問題に関してはある程度の復習をしていた。
そのため重点的に勉強する内容を物理、数的処理、文章理解を少しと最後に時事問題と決めた。
毎日物理を1単元、数的処理を3問、文章理解を1問、その他の科目は毎日順番に2問ずつと決めて勉強した。量的に少ないかと思われるが、
これでも2~3時間はかかる。


毎日が忙しかった。卒業研究をしながら教員免許の為の教育実習にも出て、生活のためにアルバイトもして。当然遊びたい盛りである。
進まない時もあったが、その分別の日に勉強するなどめちゃくちゃやってたと思う。

先を見据えて


卒業の見通しが経った秋から上京し、冬に筆保研究室に進学が決まり、入学費と生活費を稼ぎながら半年後の試験に向けて勉強する生活が始まった。
アルバイト先でも許可を得て勉強したり、地元に帰るバスの道中でもノートを開いたりネットの動画を聞いてたりしていた。
どうにかこうにか解けるようにはなったが初めて解く問題には手も足も出ないことが多く、まだまだ先は長いように見えた。


不幸中の幸い?~新型コロナウイルスによる試験延期

進学直前の頃から社会がざわつき始めた。例のヤツが現れた。新型コロナウイルスである。
社会はことごとく混乱し、緊急事態宣言が出された。みんなが手探りだった頃である。
そしてその影響は試験にも表れた。試験の延期である。

院進での受験の強みは試験を受験するのに2年チャンスがあることである。1年目は手探りでも良く、2回のうちに合格すればよい。
もちろん1回で受かることに越したことはない。あくまでも自分の考えである。
ただ、院1年目の受験で「もう1回チャンスがある」という事実はメンタル的に大きかった。ましてや苦手分野である。
最初の頃は楽観的だったので「仮に今年中止になっても来年がある」と考えていた。



ワンチャンいけるかも?~宣言中の勉強


緊急事態宣言中は外に出れずテレビ番組も延期になり、することといえば家で過ごすことのみだった。
だとしたら勉強するしかない。5~6時間は毎日勉強していた。
怠けてダラダラと遊んでいた時もあるが、それでも毎日参考書とノートだけは開いた。
問題が少しずつ解けてくるようになっていた。

延期していた試験の日程が8月に決まった。
5月からは時間を意識して勉強するようにした。
決めた時間の半分で問題を解き、もう半分の時間はわからなかった問題や復習に充てる
時間の使い方だけは気を付けた。



いざ本番!~問題が分からない...


いざ本番の日を迎えた。前の日は最後の復習に努めて休むつもりだったが眠れなかった。
いざ問題用紙を開くと教養問題はすらすらと解けた。これはいける!と内心感じた。
この後最大のピンチを迎えようとは。

重要な専門試験である。問題を見た。分からない。ここにきてみたことない問題に手が止まってしまった。
絶体絶命のピンチである。
とりあえず解ける問題をさっさと終わらせて、解けない問題にとりかかった。時間を決めて勉強していてよかったと思った。
最後までいくつかの問題は解けなかった。
筆記試験は半分終わった気持ちで記述していた。



気を取り直して面接へ


数日後、二次試験の個別面接の案内が届いた。質問の内容を参考書やネットで集め、
自分でシチュエーションを何度も何度も行った。
今の自分には面接を頑張るしかない、そう思った。



二次試験当日...住民票の不備!?


二次試験当日、家から遠かったので早めに家を出た。
電車の中で持ち物の最終チェック。しまった。住民票に不備があった。
慌てて会場の最寄りのコンビニで発行し、案内係の職員さんに事情を説明。今回は何とかしてもらえることに。
助かった...


失敗を糧に


二次試験は事前に提出した面接シートをもとに個人面接が行われる。
要するに詳しく教えてほしい、とのことであった。
「自分の短所はなんですか」との問いに、面接シートの内容だけでなく今朝の住民票の件も加えてみた。
緊張癖の自分にしては頭がよく回った返しだったと思う。



今でも忘れない1枚のハガキ

10月、家にハガキが届いた。
そこには「合格」の文字が。 席次は中の中から下。席次なんて関係ない、合格したことがびっくりだった。
家族に伝えたときの驚きが今でも忘れられない。
当然である。5点の息子が物理区分に合格したのだから。
研究室にも報告した。ほぼ同じタイミングで辻先輩も合格したことを聞いた。
一番手は取られてしまったが自分は自分の道を行くんや。



第2ラウンド~官庁訪問


合格から10か月ほどが経ち、2021年夏。官庁訪問の季節がやってきた。
相変わらず新型コロナウイルスが社会に影響を与えており、オンラインでの面接となった。
今度は事前に対策をしていたのでばっちりだった。
マッスル道場と時間がかぶりかけたのだけが想定外だったが。

結果は「採用」!これだけ報われたと思った日が来ようとは。
合格のハガキも、採用の通知も大切に保管している。






戦いを終えて


気象庁に採用が決まり、皆さんのお力添えで修了までこぎつけることができた。
4月から憧れの気象庁で働くことになった。

ただ、残念なこともある。まずは目指していた大手町から気象庁が移転してしまったことだ。
もう目指していたあの光景で働くことはできない。
そして、配属先は希望していた部署ではなかった。しかし大学から追い続けてきた「防災」の部署である。
学んできたことを少しでも生かしたいと考えている。

今の自分では実力不足が明らかである。物理が完璧にできるようになったわけでもなく、
気象学もまだまだ分からないことだらけである。
社会に出ることに不安もある。

今後も勉強に励みつつ、社会人になっても頑張っていこうと思っている。


そらは広くて深い

ゆえに複雑で美しい


作成:古田2022/3/26