パイロットバルーン観測による横浜国立大学上空における
上層風の日変化及び季節変化の解明

2013年 3月

気象研究室 松下嗣利



研究背景・目的

現在、日本では全国16ヶ所で1日2回高層観測が行われている。(図1)
しかし、横浜では観測は行われておらず、1日に2回の観測では上層の風の日変化を捉えることは困難であると考えられる。
そこで本研究では、集中的かつ長期的なパイロットバルーン観測の実施により、横浜国立大学上空における上層風の日変化及び季節変化を解明することを目的とした。

高層観測網
図1 気象庁による高層観測網
赤丸は観測地点を示す



研究手法・観測日程

〇パイロットバルーン観測の概要

ヘリウムを充填させた風船をセオドライト(図2)で追尾し、その風船の方位角・高度角及び上昇速度より風船の3次元的な位置を特定することができる観測である。
各高度における風向風速は無風時の上昇時の位置との差を使って求めることができる。
今回は風船中のヘリウムを20gに調整し、1分間に100m上昇するようにした。


〇観測の詳細

観測場所:横浜国立大学教育人間科学部第2研究棟(横浜国立大学の位置は(図3)参照)
観測日程:(表1)のとおり。2011年6月〜2012年8月まで、1ヶ月に1回を目安に15日間観測を行った。
観測インターバル:2011年6・7月、2012年7月は集中観測として1.5時間間隔、他の日は3時間間隔で行った。

図2 セオドライト
図3 関東周辺地図

表1 観測日程
日時横の風船の数は観測回数を示す



観測結果

観測結果は、(図)のとおりである。
上記のとおり、15日間、96回の観測が考察の対象である。

観測結果20110628
図4 観測結果(2011年6月28日)
横軸は打ち上げ時間、縦軸は高度(m)、矢羽の色は風速(m/s)
図5 全観測結果




考察

日変化

高度1000m以下において、(図6・7)より、11時頃からおよそ500mの厚さで東風が、14時頃からおよそ1000mの厚さで南風の強まりが見られる。
この日は1日を通してよく晴れており、十分な日射があったことから、この風向変化は2回の海風によって引き起こされたものだと考察した。
2回の海風とは「正午ごろをピークに東京湾から入る海風」と「夕方をピークに相模湾から入る海風」であると考えられ、横浜(保土ヶ谷区)は東京湾が近いために、先に前者の海風が入り、遅れて後者の海風が入ると考えられる。
また、海風の厚さは観測結果より、後者の方が前者より厚いことが示された。

東西風20110628 南北風20110628
図6 東西風(2011年6月28日)
暖色系は西風、寒色系は東風
図7 南北風(2011年6月28日)
暖色系は南風 寒色系は北風



季節変化

季節変化について
・海風の発生しやすさと厚さ
・夏の1000m~2000mの風向風速と太平洋高気圧
・南高北低の気圧配置に由来する西風の流入高度
の3つについて考察を行った。

観測結果矢羽
図8 上層風の季節変化まとめ
上段は9時、中段は12時、下段は15時の各月の風向風速変化

観測結果シェイド
図9 東西・南北風の季節変化まとめ
左側が東西風、右側が南北風。上段は9時、中段は12時、下段は15時の各月の風速値を色分けしたもの


〇海風の発生しやすさと厚さ

まず、日射量が少ないために海風が起こらないと考えられる日を(図9)中から除外した
除外する観測日は2011年7・9・10月、2012年3・6月であり、残った観測結果をもとに考察を行った。
東京湾からの海風と思われる東風を顕著にとらえられたのは2011年6月と2012年5月のみであった。
また、太平洋(相模湾)からの海風と思われる南風について、12時⇒15時で地上から南風成分の強まりが見られる高度までを海風の厚さとすると、6・7月頃に最も海風の厚さがあり、1月頃に海風の厚さが薄くなっている傾向が見られた。 これは季節によって、太陽高度・昼間の長さの違いがあり、そのために生じる日射量差が海風の発生しやすさに関わっているためだと考えた。



〇夏の1000m~2000mの風向風速と太平洋高気圧

7・8月の観測(計4回)から、風向風速と一般場の関係について考察した。
まず、下層から上層まで風速が大きく、風向・風速ともにほとんど変化しないことから、これを台風接近時の風の特徴と考えた。
次に、1000〜2000mの風向風速について、各観測日のMSMデータと照らし合わせると、
風速が小さい時⇒太平洋高気圧の関東付近への張り出しが強い。
風速が大きい時⇒太平洋高気圧の関東付近への張り出しが弱く、高気圧の縁辺流がかかっている。
という傾向が見られた。
よって、盛夏期における1000m〜2000mにおける風速の大きさは850hPa付近の太平洋高気圧の盛衰に関係していると考えた。



〇南高北低の気圧配置に由来する西風の流入高度

矢羽による観測結果まとめ(図8)において
・転向後の高度上昇にともなう風向変化が小さいこと
・転向後に、高度上昇にともなって風速が大きくなる
を満たす時の「西風への転向高度」の季節変化について考察した。
1000m〜2000mでは、2011年9月〜2012年4月で転向点が見られ、転向高度は1月でもっとも低かった。
よって、南高北低の気圧配置は1月をピークに強まり、夏にかけて弱まるという季節変化があると考えた。







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