そらカメラを用いた気象学の教材研究

〜横浜の空のなぞとき〜

 

2013年3月
気象学研究室  後間理


【背景・目的】


 空の写真  空の写真  空の写真  空の写真  

 空は毎日多様な変化を見せる。私たちが見ていない間にも不思議な現象や面白いことがたくさん起こっている。
そこで、本研究では目的を二つ設定した。

@そらカメラを使って、“空で起こるふしぎ”を発見し、その原因を突き止めること。
A日々のそら観測から、定量的に雲形の季節性を見つけだすこと。



【目的1 研究手法】

場所:横浜国立大学第2研究棟屋上
観測測器:そらカメラ(図1)(図2)
インターバル:1分に1枚画像を保存
解析使用期間:2011年1月〜2013年9月

図1 設置の様子

図2 設置場所と5つのカメラが撮影する方向



【解析結果】

 解析した画像から空で起こる不思議を見つけ出し、19個のムービーを作成した。その中で、アナレンマムービーについて紹介する。アナレンマムービーは一年間の同じ時間のみを取り出し、太陽の動きを見ているものである。

<1年間の太陽の動きを考える>
 一年間の太陽の動きを考えると、小学校4年生の日周運動の学習では正午に太陽の高度が1番高くなると習う。また、日の出・日の入りの場所が季節によって変わるため、太陽の高さは変わって見える。したがって、一年間の12時だけを取り出すと、冬至の頃に一番低く、夏至の頃高くなり、太陽は上下直線上に動くと考えられる。(図3)

図3 1年間の太陽の動き(南の空)


 同じく、西の空の16:30であっても季節によって日周運動の高度に差が出る。ただし西の空では太陽の軌跡が変わり、1年間の16:30をつなげて見ると、太陽は斜めの直線上を動くと考えられる。(図4)

図3 1年間の太陽の動き(西の空)


 一年間の16:30を実際に見てみると、太陽高度が冬至の頃に低くなり、夏至の頃に高くなっているが、直線ではなく8の字を描いているという不思議を発見した。この不思議な現象はアナレンマと呼ばれるものである。(図4)

図4 アナレンマの軌跡(西の空)


  南の空でもアナレンマが見られるので、一年間ちょうど12時だけ取り出した太陽の動きは8の字を描くことになる。これは言い方を変えると、直線ではないことから、太陽が南中するのは必ずしも正午ではないことがわかる。では、どうしてアナレンマという現象が生まれるのかを、本研究では縦と横の動きに分けて説明する。

<アナレンマができるわけ(縦)>
●アナレンマの縦の動き
     →日の出・日の入りが季節によって変わることで起こる


 縦の動きは日の出・日の入りが季節によって変わることで生まれる。図5の女の子の視点に立つと、夏至、春分・秋分、冬至の太陽高度が変わる。したがって、一年間の12時をつなげて見ると、縦に動いているように見える。この縦に動いて見える現象は小学校の学習で理解することができる。(図5)

図5 季節による太陽高度の変化


<アナレンマができるわけ(横)>
●アナレンマの横の動き
     →地球の公転も関与している


 横の動きは、太陽が次の日に南中位置に戻ってくる時間が24時間より長くなったり、短くなったりするために生じる。図6は実際の南中時刻を表しており、横は月日、縦は時刻である。赤い線は日々の南中時刻で、毎日南中時刻は変化していることがわかる。
この理由には地球の公転も関与している。(図6)

図6 南中時刻の変化


 地球の公転軌道は楕円形になっている。ケプラーの法則で説明されているとおり、地球が太陽に近い時、単位時間当たり公転で進む距離は大きくなり、遠い時は進む距離が小さくなる。この旗は図5の女の子が立っている場所だとすると、360度自転する間に、地球は公転で動いているので、女の子の場所ではまだ南中ではない。女の子が立つ場所が南中するにはα分の余分な自転が必要となる。遠日点では、360度の自転の間に公転で進む距離が近日点に比べて小さいので、太陽が南中するために必要な余分な自転βは小さくなる。このαとβがイコールではないことが、アナレンマの横の幅が変わることに関係している。これは中学校・高校の学習で理解できるようになる。(図7)

図7 公転軌道が楕円形による南中時への効果


【まとめ】

●アナレンマは、小学校での天動説的な考え方では生まれない。中学校・高校と地動説的な考え方へ と移行することによって生まれる。
●アナレンマの理解には、地軸の傾きや地球の公転が関与している。したがって、本研究で作成したアナレンマムービーは、中学校・高校での授業の理解を深める応用教材として使えるのではないかと考えた。







【目的2 研究手法】

観測場所:横浜国立大学第2研究棟屋上
観測の時間:毎日16時
解析した観測日数:743日(2010年10月〜2013年9月の3年分)
観測に携わった人数:17人

 本研究では、空で多様な変化をする雲にも着目した。雲の種類は大きく分類すると10種類あり、高さや形などにより名前がつけられている。

図8 雲の種類(十種雲形)


【観測結果】

図9 天気の月変化

 まず、月別で快晴・晴れ・くもり・雨の日数を出し1月〜12月と月変化を見てみると、晴れが多い月や曇りが多い月などの特徴が見られた。この、晴れや曇りに現れた雲形には季節によって変化があるのかということを見るために雲形ごとの月変化を見てみることにした。(図10)
十種雲形のそれぞれの月変化を示したグラフを上層の雲・中層の雲・乱層雲・下層の雲・対流性の雲の5つに分類し、月変化を見やすいようにした。(図11)

図10 十種雲形別の月変化

図11 雲形を5つに分類した発生割合


 横軸は1月から12月と月を並べており、縦軸は割合である。上層の雲は9月から発生割合が高くなり3月・4月は割合が低くなった。続いて、横浜国立大学屋上でよく観測される中層雲は、特に12月・1月に割合が高くなった。乱層雲は2月から割合が高くなり、梅雨の時期をすぎる7月から割合が低くなっていた。下層雲は年変化が見えにくいが、10月から12月にかけて割合が高くなる傾向が見られた。最後に、対流性の雲は分かりやすく、8月・9月の夏に最も割合が高くなることが結果からわかった。


図12 各月のベスト3

 横軸は1月から12月と月を並べており、縦軸は割合である。上層の雲は9月から発生割合が高くなり3月・4月は割合が低くなった。続いて、横浜国立大学屋上でよく観測される中層雲は、特に12月・1月に割合が高くなった。乱層雲は2月から割合が高くなり、梅雨の時期をすぎる7月から割合が低くなっていた。下層雲は年変化が見えにくいが、10月から12月にかけて割合が高くなる傾向が見られた。最後に、対流性の雲は分かりやすく、8月・9月の夏に最も割合が高くなることが結果からわかった。

【まとめ】

●目的Aでは、横浜国立大学第2研究棟屋上の16時における3年分の観測データを元に、定量的に十種雲形の季節性を見出すことができた。
●季節性あり  ・・・ 巻雲、巻積雲、巻層雲、乱層雲、層雲、層積雲、積雲、積乱雲
●季節性なし  ・・・ 高積雲、高層雲 



背景に使用した素材はこちらからお借りしました。

Mariのいろえんぴつ

風と樹と空とフリー素材