夏の暑さに対して様々な対策が考えられているが、その一つに日傘が有効とされている。
しかし、日傘の効果について、傘の表面温度や傘の下での温度を定量的に研究した事例は少ない。
また一般に販売されている日傘は、白色や黒色が多く、他の色の日傘はほとんど見かけない。
そこで、日傘の効果がどの程度あるのか、その効果は傘の色によって異なるのかを検証することを目的とし、
野外実験を行った。
赤・青・紫・オレンジ・白の傘を付けた測器と傘を付けない測器の合計6条件を用意し、各条件で乾球温度・黒球温度・湿球温度を測定した。(図1)
日中の間、測器を屋外に放置して温度データを取得した。
同時に、赤外線サーモグラフィを用いて測器を上から撮影し、傘の表面温度と地表面温度も測定した。(図2)(図3)
また付近に設置している気象観測システム(SORA-oシステム)から、日射と風のデータを取得した。(図4)
実験日時:2013年の7 月19日、8月2日、8月16日
実験場所:横浜国立大学教育人間科学部第2研究棟の屋上
平均温度の条件による差は、乾球温度は0〜2℃、黒球温度は0〜4℃、湿球温度は0〜1℃であった。
特に大きな差が見られたのは3回目の黒球温度であり、傘無しが48℃、青傘が44℃であった。
2回目と3回目の観測では、黒球温度に日傘の効果が見られた(日傘効果)。(図6)
また、主に乾球温度と湿球温度において、傘をさした方が温度が高くなる傾向が見られた。(逆日傘効果)
日射の平均は1回目が0.63kw/m2、2回目が0.44kw/m2、3回目が0.85kw/m2で、3回目の日射量が多かった。(図5)地表面温度は、傘の影の部分と日向の部分の差が大きく、3回目の平均値を見ると影の部分は42℃、日向の部分は69℃であった。
各温度には日射が大きく影響している。
実験結果より、放射エネルギー、熱損失、顕熱・潜熱輸送の観点から、日傘の効果について考えた。
まず傘の有無による効果を考えると、傘をさすことで傘の下の温度が上昇する傾向が見られた。
これを「逆日傘効果」と名付けた。この温度上昇は傘の内側に熱がこもったことが理由であり、
その熱には傘の放射エネルギー(図7)や顕熱・潜熱(図8)が影響すると考えられた。
また傘をさすことで傘の下の温度が下がる効果を「日傘効果」とした。 2回目と3回目の観測では、黒球温度に日傘効果が見られた。 黒球温度は人間の体感温度に近いと考えると、傘をさすメリットがあると思われる。
次に傘の色による日傘効果の差を考えた。放射エネルギーと熱損失の観点から、赤・青・紫とオレンジ・白に分けられると考えた。(図9)(図10)
前者の方が黒球に対する割合の平均値が高いため、赤・青・紫は黒球に近い性質をもち、オレンジ・白のほうが傘による効果は大きいといえる。(表1)
また平均値の差は、3回目、2回目、1回目の順で大きかった。そのため3回目の実験日のように、特に日射の多い日は、傘の効果が大きいと考えた。
赤 | 青 | 紫 | オレンジ | 白 | ||
1回目 | 放射エネルギー | 87 | 87 | 87 | 87 | |
熱損失 | 29 | 27 | 28 | 20 | ||
2回目 | 放射エネルギー | 89 | 89 | 89 | 86 | |
熱損失 | 29 | 30 | 34 | 16 | ||
3回目 | 放射エネルギー | 85 | 86 | 87 | 82 | 81 |
熱損失 | 27 | 31 | 33 | 17 | 14 |
〇黒球温度の平均値より、日傘効果は1.0〜3.9℃である。
〇赤・青・紫よりもオレンジ・白といった明るい傘のほうが、日傘効果は大きい。
〇日射の多い日は傘の効果が高い。