高解像度地上観測データを用いた

神奈川県の気候分析

 

2015年3月
気象学研究室  中澤竜太


◆背景・目的


世界の気温変化

図1:世界の平均気温上昇率

 20世紀半ば以降、地球規模での気温上昇が起き「地球温暖化」が指摘されている。そうした中で、『世界視点』の気候変化の研究は多いが、『地域視点』の気候変化の研究は少ないという背景がある。

そこで、本研究では地上観測地点の気象データを用いて、30年スケールでみえる・・・


@神奈川県の気候値(長期平均値)
A神奈川県の気候変化(気候値の変化)


を分析することを目的としている。

◆研究手法

<使用したデータ>
気象庁AMeDAS気象データ
<期間>
1980年〜2013年

図2:観測地点



◆観測結果

★気温★  
・神奈川県の東部に位置する「横浜」「三浦」と比較して、それらより西部に位置する「海老名」「小田原」の方が長期的に見て平均気温は低い。(図3)
・平均気温は、長期的に見て上昇傾向にある。また、横浜に焦点を当て、世界や日本全体の気温変化と比較してみたところ、横浜の気温の上昇率(1.5℃/34年)が最も高いことがわかった。(図4)
・猛暑日、真夏日、夏日の発生日数は、長期的に増加傾向である。一方で、冬日の発生日数は1980年代に減少し、その後はほぼ横ばいである。(図5,6)
・年変化のグラフからわかるように、平均気温には季節変化があり、気温の高い時期(7,8月)より、気温の低い時期の方がばらつきが大きい。(図7)

図3:気温分布(30年平均気温) 図4:平均気温の経年変化
図5:猛暑日、真夏日、夏日の発生日数 (横浜)  図6:冬日の発生日数 (横浜)
図7:平均気温の年変化 (横浜) 

★降水★  
・西部の山岳地域ほど降水量が多く、中央部・東部の平野・丘陵地域ほど降水量が少ない。(図8)
・年間降水量においては、年による大きなばらつきはあるが、気温のような気候変化は見られない。(図9)
・雨の降り方には気候変化が見られ、雨の降った時間は減少し、短時間強雨が増加している傾向がある。(図10)
図8:降水量分布(30年平均)  図9:年間降水量の経年変化
図10:1時間降水量頻度 


◆考察

【神奈川県における降水には、どのような気候変化があるのか?】

●解析結果から...●

 解析結果から推測される降水の気候変化を、模式的に表してまとめた。(図11)
 まず、雨が降った時間数の減少。
 そして、年間降水量に占める強い雨による降水量の増加と弱い雨による降水量の減少。

図11:解析結果から推測される降水の気候変化

●雨の降り方が変化している要因●

 要因の1つとして、気温の上昇とそれに伴う飽和水蒸気量の増加が関係しているのではないかと考えた。空気が含むことができる水蒸気量には限界があり、限界まで水蒸気を含んだ状態を飽和という。そのときの水蒸気量を飽和水蒸気量(g/m3)という。気温が高ければ高いほど、その空気が含むことができる水蒸気量、つまり飽和水蒸気量は多くなる。例えば、気温が15℃から2℃上昇し17℃になったとき、飽和水蒸気量は1.65g/m3増加する。飽和水蒸気量は、雨粒のもととなる雲の粒の生成に大きく関係している。雲の粒ができるのは、空気中の水蒸気が過飽和になったときであるため、飽和水蒸気量が増加すればするほど、過飽和状態になりにくく雲の粒が発生しにくくなる。つまり、雨粒のもととなる雲の粒が発生しないということは「雨が降りにくい」という状態になることがわかる。一方で、雨が降るときにはより多量の水蒸気が雨となるため、降水量が多くなると考えられる。したがって、神奈川における「雨の降り方」の変化は、上記に示したことが要因で起こっていると考察することができる。
 これらのことを模式図に表すと、以下の様になる。(図12,13,14,15)

図12:気温が上昇し、飽和水蒸気量が増加 図13:双方に同量の水蒸気量が増加
図14:昔ならば雨が降るが、今は雨にならない(雨が降りにくい) 図15:雨が降るときは、たくさん降る(降水量の増加)

☆まとめ

<神奈川県の気候>
・横浜の気温は長期的に見て上昇傾向にある。
・降水分布において、西部の山岳地域ほど降水量が多いという特徴がある。
・『雨の降り方』に変化がみられ、短時間強雨が増えている。
 ⇒気温上昇に伴う、飽和水蒸気量の増加が要因だと考えられる。




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