数値シミュレーションと3次元可視化ツールを用いた
神奈川県における局地風の教材研究

2016年 3月

気象学研究室 小林直弘



目次

  1. 序論
  2. 理想化実験…概要と結果
  3. AVSによる可視化とアンケート

1.序論


科学技術振興機構の行った実態調査によると、小学校や中学校の理科教員が理科の分野の中でも、もっとも地学の指導に苦手意識を感じている。


図1 理科各分野の指導について、どのように感じているか(小学校教員)
(平成22年度小学校理科教育実態調査より作成)
図中の破線は「やや得意」と「やや苦手」の境界線を表す



図2 理科各領域指導について、どのように感じているか(中学校教員)
(平成24年度中学校理科教育実態調査より作成)
図中の破線は「やや得意」と「やや苦手」の境界線を表す



その一方で、中学校の生徒は理科の中でも生物に次いで、地学の勉強を好むという。


図3 理科の各領域の勉強について、好きだと感じているか(中学校生徒)
(平成24年度中学校理科教育実態調査より作成)
図中の破線は「どちらかといえばあてはまる」と「どちらかといえばあてはまらない」の境界線を表す


この相反は、さながら「地学のギャップ」の様相を呈している。
今回は、地学の内容の1つである局地風に焦点を当てた。そして、ギャップ解消に向けて、以下のことを行う。


2.理想化実験…概要と結果


概要


まず、領域気象モデルThe Weather Research & Forecasting Model (WRF)を用いて、実際の観測データを改変して作られた初期値を与えた3次元理想化実験を行った。地形は、単純地形から複雑地形へと次第に変化する4種類を用意した。

図4 地形の改変(左から右に向かって変化する)


結果


地点1…横浜市付近 地点2…平塚市付近 地点3…小田原市付近


実験0:リアル神奈川実験


図5 リアル神奈川実験の結果
ベクトル…地上10m風、シェード…地上2m気温

実際の地形に即した複雑な風が確認できた。(横浜市・平塚市・小田原市)


実験1:海千陸千実験


図6 海千陸千実験の結果
ベクトル…地上10m風、シェード…地上2m気温

相模湾を模した海洋と陸地の間で海風と陸風の変化する様子が見られた。(横浜市・平塚市・小田原市)


実験2:海千陸山実験


図7 海千陸山実験の結果
ベクトル…地上10m風、シェード…地上2m気温

山谷風の出現と山谷風の海陸風との結合が示された。(小田原市・平塚市?)


実験3:東京湾実験


図8 東京湾実験の結果
ベクトル…地上10m風、シェード…地上2m気温

相模湾だけではなく、東京湾と陸地の間で海風と陸風の影響が見られた。(横浜市)


また、地点ごとに風の変化を表すと、以下のようになった。




横浜市

図9 1日の風向風速変化(横浜市)



平塚市

図10 1日の風向風速変化(平塚市)



小田原市

図11 1日の風向風速変化(小田原市)


以上の結果より、神奈川県の風には
  1. 相模湾との海陸風
  2. 丹沢山地との山谷風
  3. 東京湾との海陸風
という局地風が影響を及ぼしていることがわかった。


地点ごとにまとめると、以下のような結果となる。

表1 神奈川県の風に影響を与える要素



3.AVSによる可視化とアンケート


リアル神奈川実験の結果を3次元可視化ツールAVS/Expressで読み込み、シミュレーション結果の3次元の可視化を行った。それをもとに、小学校で「どれが見やすいか」を問う選択肢を用意した。

図12 AVSで作成した図をもとにした3つの選択肢
左…2次元の静止画 中…2次元の動画 右…3次元の動画
この可視化では、現実と同じ凹凸のある地形に気温分布が貼りつけられ、矢印の大きさや向きで風向風速が再現されている。

アンケートの結果、8割以上が「3次元の動画が見やすい」と答えた。
これより、
地学の指導に苦手意識を持つ教師を支援する
←風系を3次元可視化ツールで可視化した教材の効果が確認された
  
児童生徒に現象を身近なものと思わせるメリットがある
ことがわかった。

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