外壁の色の違いによる百葉箱の温度変化
〜パンダ大作戦〜


2017年 3月

加瀬紘熙




- 背景と目的 -

百葉箱は、小学校理科の学習において児童が定点気象観測の重要さを知るために、長年使用されてきた教具であるにもかかわらず、百葉箱の色や規格、高さなどの詳細な規定が無く、児童が定点気象観測についての理解を深めるには情報が不足している。

本研究では、白色と黒色の同規格の百葉箱を設計及び製作し、それぞれの百葉箱を2台並べて同じ観測条件のもと観測実験を行い、外壁色の違いが観測温度にどのように影響を及ぼすのかを調査することを目的とした。






- 設計及び製作 -

気象庁が発行している気象観測の手引きや従来の百葉箱を参考に百葉箱内の温度計の感部が地上から1.5 mになるように百葉箱と台の設計及び製作を行った。

- 設置 -

気象観測の手引きに従い、百葉箱の扉が北を向くように横浜国立大学教育人間科学部8号館裏の広い芝の上に2台並べて設置した。

- 研究手法 -

観測概要

長期観測



白色と黒色の百葉箱の中に「T&D Corporation おんどとり TR-52s TR-52i」を使用して温度を観測し、色の違いが測定温度にどのような影響を及ぼすのかを調べた。観測期間は7月12日から現在まで続けており、欠損を除く12月14日までの4時30分〜19時30分までのデータを解析に使用した。

短期観測




「温熱環境観測測器 コロスケ(自作)」と「遠赤外線サーモグラフィ testo885」を用いて、長期観測で観測しているデータに黒球温度の観測と黒球及び百葉箱の表面温度の観測を追加し、色の違いが表面温度にどのような影響を及ぼすのかを調査した。観測期間は、8月11日の5時00分〜19時00分まで行った。



本研究では2つの観測を行った。

- 結果と考察 -

長期観測

7月12日〜12月14日(欠損や異常が見られた日は除外した。)の138日分のデータを使用した。

快晴日と雨日



雨日の10月17日のデータを見ると、4種類の測定温度の推移がほぼ重なっていることがわかった。また、快晴日の10月20日のデータを見ると、日射の影響により、4種類の測定温度の変動については、ばらつきがあるが、白色の内側の温度の変動の度合いが小さいことがわかった。これは、雨の日では、10月17日のグラフの様に、快晴日では、10月20日のグラフの様になった。



1時間移動平均

快晴日である10月20日4種類の測定温度の1時間移動平均を取ることにより、測定温度の変化をとらえることができた。その上下関係は、黒色百葉箱の内側>黒色百葉箱の外側>白色百葉箱の外側≒白色百葉箱の内側の順で測定温度が高いという結果が得られた。





1時間移動平均と実測値の差

実測値と1時間平均との差を求め、絶対値を取るとこのようになった。これをすべての測定日において行い、平均値を求めると、1分間あたり、白色百葉箱の外側では0.26℃、白色百葉箱の内側では0.18℃、黒色百葉箱の外側では0.41℃、黒色百葉箱の内側では0.23℃、となり、白色百葉箱の内側<黒色百葉箱の内側<白色百葉箱の外側<黒色百葉箱の外側の順に日射の影響を受けやすいことがわかった。


短期観測



表面温度

黒色百葉箱の内側の温度が最も高くなった時刻は、12時00分で、黒色百葉箱の外側の温度が最も高くなったのは、12時40分であった。このようにずれが出るのは、熱吸収率が高い黒色のため、日射の影響を強く受け、表面が短時間で急激に熱せられたことが大きな要因であると考えられる。百葉箱の表面の温度が百葉箱本体の熱伝導率の低い木材を伝わり、百葉箱の内側の温度を上昇させたことが考えられる。さらに、表面温度が上昇したことによって、百葉箱の外側の空気の温度が上昇し、風によってその空気が百葉箱内に流れ込み、百葉箱内の温度が上昇したことが考えられる。

晴日の特徴

白色と黒色百葉箱の内側の温度の差は10時で1.9℃であったが、11時頃から急激に温度差が大きくなり、12時に最大値3.1℃に達した。
その後、温度差が縮まり最高気温の14時頃で2.5度前後の温度差を示しており、15時頃から温度差は急激に小さくなった。


このように、白色と黒色の内側の温度差が気温の最大時や下降時(午後)よりも上昇時(午前)に大きくなることは、短期観測の日に限らず晴天日に見られた特徴である。



観測期間中の晴天日の日射と白色と黒色百葉箱の温度差を時間ごとに区分して関係を調べると(図は7月のもの)、全ての時刻において日射と温度差には正の相関関係が認められたが、9時や10時の近似線の傾きは他の時刻と比べて2〜4倍になっていた。
この理由は、太陽高度の高い正午よりも太陽高度が低い時間の方が百葉箱側面に日射がよく当たり、日射の影響を強く受けたことが考えられる。
午後も同様の太陽高度になるが、地面から暖められる影響が強くなり、百葉箱側面の影響が相対的に小さくなったと考察した。




- まとめ -

2つの実験を通して、百葉箱の外壁色の違いによって日射が観測値に大きく影響することがわかり、日射の影響によって生じる温度差を回帰式として明らかにした。従来の白色の百葉箱は、14時ごろに最高気温を示し、日射の影響が小さいことが分かった。黒色の百葉箱では、12時ごろに最高温度を示し、温度の変動が激しいことが分かった。1日の温度の変化を学習するためには、温度の変動が穏やかであること、14時に最高気温を示すことが必要である。それを満たすために百葉箱が白色であることが分かった。
さらに、全ての時刻において日射と温度差には正の相関関係が認められたが、9時や10時の近似線の傾きは他の時刻と比べて2〜4倍になるということがわかった。




ホームページに使用した背景はこちらの素材サイトからお借りしました。
*リンクは、別窓で表示されます。
jpg 1.0kb…背景