体育館における温熱環境の観測研究
コロスポプロジェクト2016


2016年度 卒業論文
気象研究室 小泉陽菜





1)研究背景

 2015年に横浜市衛生研究所が発表した熱中症情報によると、5月1日~8月27日の期間に熱中症で搬送された人数は、計898人(5月31人、6月33人、7月 448人、8月386人)であった。(図1.1)また、最高気温30℃を超えると、熱中症救急搬送者数が増加傾向にある。そのうちの42.2 %が屋内で発生しており、意外にも屋内での活動中に熱中症にかかっている人数が多い。(図1.2)横浜国立大学の体育館はエアコンが設置されておらず、熱中症リスクが高いと考えられる。



図1.1 横浜市の熱中症救急搬送者数と暑さの関係

図1.2 横浜市の熱中症の発生場所の割合



2)目的

 本研究の目的は、熱中症リスクが高いと考えられる横浜国立大学体育館の温熱環境を明らかにすることだ。温熱環境を明らかにするために、以下3つの視点から解析を行った。
(1)体育館のWBGTは屋外よりも高いのか
(2)体育館を使用する団体の中で温熱環境が悪いのはどの団体か
(3)温熱環境が悪化する要因の解明




3)観測概要


 温熱環境観測測器コロスケを体育館1階、2階と屋外の計3地点に設置し、各地点で乾球温度・黒球温度・湿球温度を測定した。また、SORA-oシステムから日射量や風速のデータを用いた。体育館を使用した団体の実態調査については、学生支援課や各団体に協力をいただいた。
観測期間:2016年7月25日〜2016年9月26日の約40日間
観測場所:横浜国立大学体育館1階・2階、体育館横駐輪場


図3.1 体育館におけるコロスケの観測風景
図3.2 観測場所である横浜国立大学体育館
図3.3 横浜国立大学第2研究棟屋上のSORA-oシステム
図3.4 体育館スケジュールの一部 (2016年8月1日〜8月5日)



4)実験結果


(1)体育館と屋外のWBGTを比較すると、平均的に見て15時から21時の時間帯で屋外よりも屋内のWBGTが高くなった。夏季の横浜国立大学体育館のWBGTは25℃〜30℃の範囲にある日が多く見られた。図4.1は夏季のWBGTの典型例である。

図4.1 夏季WBGTの典型例(9月3日のWBGT)


(2)団体ごとの時間面積平均(WBGT' = 1/nΣ(体育館WBGT))を算出し、各団体が活動している時の温熱環境の悪さをランキングで示した。(図4.2)

図4.2 各団体ごとのWBGT’ランキング


 

5)考察


(1)体育館と屋外を比較すると、平均的にみて
   9時〜15時  屋内 > 屋外
   15時〜21時 屋内 < 屋外
   となった。
 このことから、体育館には「温まりにくく、冷めにくい」性質があると考えた。(図5.1)



図5.1 体育館の温まり方の模式図




(3)WBGT'の要因を7つの項目から検討した。
・活動時間帯(図4.3)
・窓の開閉(図4.4)
・扇風機の使用(図4.4)
・総活動時間(図4.5)
・活動人数(図4.5)
・平均風速(図4.5)
・日射量(図4.5)



図4.3 活動時間帯の割合
(上:WBGT’上位4チーム 下:WBGT’下位4チーム)




図4.4 窓を開けた団体(左)と扇風機を使用した団体(右)




図4.5 各要因とWBGT'の相関
(左上:総活動時間 右上:活動人数 左下:日射 右下:平均風速 中心:各要因の相関係数)




 これらのことから、WBGT'の要因は、日射と活動する時間帯が関係していた。活動する時間帯は、朝型(9時〜15時)の団体ほどWBGT'が高かった。つまり、温熱環境が悪い中で活動をしていたことになる。



まとめ


(1)夏季の横浜国立大学体育館のWBGTは、15時〜21時の時間帯で屋外より高い
(2)WBGT'のベスト3は女子バレー部、男子バレー部、ハンドボール部で朝型の団体が高かった。  
(3)WBGT'の要因は、日射量と活動する時間帯であった。


謝辞


 卒業論文を進めるにあたり、筆保先生には厳しいご指導を賜りました。研究室のみなさまにはあらゆる面でサポートやアドバイスをいただきました。この卒業研究を成し遂げることができたのは、みなさまの支えのおかげです。心より感謝申し上げます。

 筆保研究室では2年間という短い間でしたが、研究のやりがいや気象の面白さに触れることができました。自分にとってかけがえのない時間でした。ありがとうございました。