平成27年9月関東・東北豪雨を対象とした地形感度実験
~もしも山がなかったら~


2017年3月
気象研究室 宮崎駿





1)背景・目的

 平成27年9月関東・東北豪雨について、これまで地形の影響を評価する研究は行われていない。しかし、総降水量分布図を見ると鬼怒川流域に降水が 集中していることが確認でき、地形の影響が大きかったのではないかと考えられる(図1)。この現状を踏まえ、本研究では関東・東北豪雨の事例において地形 効果を検証することを目的とした。


図1 期間内の総降水量分布図(9/7~9/11)



2)研究手法

 本研究では、平成27年9月関東・東北豪雨を含む4つの豪雨事例を対象に以下2つの実験を行った。その他の豪雨事例は、平成26年台風18号によ る大雨と暴風(T1418)、平成25年台風18号による大雨(T1318)、平成24年7月九州北部豪雨(H2407)である。

(1)標準実験(CTL実験)
 この実験では、現実の平成27年9月関東・東北豪雨を領域気象モデルThe Weather Research & Forecasting Model (WRF)を用いて、数値シミュレーションを行なった。以下にシミュレーションにより得られた台風の3次元雲分布を示した。




(2)地形感度実験
 この実験では、まず地形の高度を2倍にした場合(DB実験)、半分にした場合(HF実験)、地形を取り除いて平坦な陸にした場合(FL実験)の地形標高 データを作成した(図2)。これらの地形標高データを用いて、WRFモデルにインプットする初期値及び境界値を生成し、数値実験を行なった。

図2 作成した地形標高データ




3)実験結果

(1)平成27年9月関東・東北豪雨の各実験の降水量分布図を作成した(図3)。
 図3を見ると、FL実験やHF実験においても南北に伸びる線状の降水域は確認できるが、CTL実験と比較すると降水量は減少している。また、地形標高を 高く設定した実験ほど降水が強化されていることがわかる。

図3 各実験の降水量分布図(mm)


(2)総降水量割合変化の結果を豪雨事例ごとに棒グラフにまとめた(図4)。
 関東・東北豪雨では、他の豪雨事例と比較しFL・HF・DB実験いずれにおいても増減率が高かったため、地形効果が降水量に与えた影響は大きいというこ とがわかった。


図4 各事例ごとの総降水量割合変化


 

5)考察

(1)水蒸気流入についての解析 - 関東・東北豪雨
 まず、関東・東北豪雨の各実験を対象に、大雨が発生するのに重要な気象要素である水蒸気の流入について解析を行った。今回は、赤線で示した35.5N, 139E~140Eの面における各高度の水蒸気流入量を解析した(図5)。
 下層で水蒸気の流入が強く、上層に行くほど弱くなっていることが確認できる。いずれの実験においても変化はほとんどなく、最も差が大きい高度でも8%程 度である。これより、地形標高を変化させても水蒸気の流入量は変わらないことがわかった。



図5 各高度面の水蒸気流入量(関東・東北豪雨)




(2)水蒸気流入についての解析 - 各豪雨事例(CTL実験)
 次に、水蒸気流入量を他の豪雨事例と比較した(図6)。赤線が各事例で解析した面である。
 一見、平成26年台風18号による大雨の方が水蒸気流入量は大きいように見えるが、1km以下の下層では今回の研究対象である関東・東北豪雨の事例の方 が大きく、他の事例よ りもより下層でとり大きくなっていることが確認できる。関東・東北豪雨の事例では、2つの台風という外力が大きく、他の事例と比較してもより下層で大量の 水蒸気が流入したことで、地形効果が降水に与えた影響が大きくなったと考察した。

図6 各高度面の水蒸気流入量(各豪雨事例のCTL実験)




まとめ

(1)関東・東北豪雨を含む4つの豪雨事例を対象に、地形感度実験を行った。
(2)関東・東北豪雨では、地形効果は弱くなかった。
(3)下層に大量の水蒸気が流入したことで、他の豪雨事例と比較しても地形効果が降水に与えた影響が大きくなった。  



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