北海道地方の爆弾低気圧ノモグラム


2016年度 卒業論文

理工学部 数理科学EP所属 玉井健太郎



1. 研究背景・動機

  毎年、冬から春にかけて日本付近で急速に発達する温帯低気圧、通称爆弾低気圧が発生し、北海道や東北地方を中心に甚大な被害をもたらして
 いる(図1-1)。そこで、本研究では山崎(2016)の台風に関する強風リスク評価の研究にならい、爆弾低気圧が通る経路を変えた経路アンサンブル
 実験を用いて北海道地方における強風リスクを算出して、地形の影響を調べた。そして、山崎(2016)が開発した地域ごとの風速値を視覚的に表し
 た台風ハザードマップである、「台風ノモグラム」(図1-2)を参考に、爆弾低気圧に置き変えた「爆弾低気圧ノモグラム」の作成も行った。


図1-1: 2014年12月17日,根室の高潮被害
  (北大河川流域工学科研究室提供)
図1-2: 山崎(2016)の台風ノモグラム


2. 研究手法

  本研究は、非静力学気象モデルWRFを用いてシミュレーション実験を行った。爆弾低気圧による風速1位を観測した2012年4月2日発生の事例
 (図2-1,2)を基に作られた初期値・境界値を利用し、仮想的に大気場を0.2度間隔で南北にずらした51ケースの経路アンサンブル実験を行った。

図2-1: 爆弾低気圧トラック
図2-2: 爆弾低気圧中心気圧推移図


 水平解像度は5km(図2-3)、計算期間は4月2日15UTCから48時間、爆弾低気圧が日本海で発達してから北海道を通過し、オホーツク海へと抜けるまで
 の期間を設定した。ノモグラム作成地点は37か所(図2-4)。

図2-3: 5km解像度鳥瞰図
図2-4: ノモグラム作成地点



3. 結果

  図3-1はコントロールランのシミュレーション結果(シェードで気圧、ベクトルで風速・風向を表している)、図3-2は低気圧中心を10分おきに
  半径300kmの領域平均した海面更正気圧の最小値を取る手法で求めた中心位置を10分おきにプロットしたもので、爆弾低気圧のトラックを
  示している。

図3-1: コントロールランのシミュレーション結果
図3-2: コントロールランのトラック


 そして、上記のシミュレーションの経路アンサンブルランの各トラックが図3-3である。トラックが南北に移動している様子が分かる。

図3-3: 各アンサンブルのトラック
(青点が北、緑点が南にずらしたトラック)
図3-2: 図3-4: 各トラックの中心気圧推移図
(青点が北、緑点が南にずらしたトラック)


 これらの結果を基に作成した書く地点での爆弾低気圧ノモグラムがこちらである(図3-5)。


図3-5: 各地点の爆弾低気圧ノモグラム




4. 考察

  留萌と岩見沢を例に取り考察をする。

 ○留萌
 留萌(図4-1)での爆弾低気圧ノモグラム(図4-2)と風向分布図(図4-2)を見ると、爆弾低気圧が留萌の東を通過する際の北風は西を通過する際の
 南風に比べて強い。
 
図4-1: 留萌
図4-2: 留萌の爆弾低気圧ノモグラム
図4-3: 留萌の風向分布図


 ○岩見沢
 岩見沢(図4-4)での爆弾低気圧ノモグラム(図4-5)と風向分布図(図4-6)を見ると、爆弾低気圧が岩見沢の西を通過する際の北風は東を通過する際
 の南風に比べて強い。
 
図4-1: 岩見沢
図4-2: 岩見沢の爆弾低気圧ノモグラム
図4-3: 岩見沢の風向分布図


 両地点で北風が吹く際には増毛山地の南側に位置する岩見沢では風下となり風が弱められる。逆に南風が吹く際には、留萌では風が弱められる
 (図4-7,8)。

図4-7: 留萌と岩見沢
図4-8: 岩見沢の爆弾低気圧ノモグラム

 以上の留萌、岩見沢両地点の比較から、同じ日本海側に位置しわずか70km離れた距離でも周りの山岳地形の影響を受けて強風リスクが高まる爆弾
 低気圧の経路はそれぞれ異なることが分かった。このことから、同じ勢力の爆弾低気圧でも各地点においてどのような経路を通るかで被害が全く
 異なることを示せた。

今後の課題

  本研究には課題や改善点が以下に挙げられるようにたくさんある。

  ・各アンサンブル実験の爆弾低気圧期間終盤まで平行にずらすこと
  ・すべての地点でノモグラムのセルを全部埋めること
  ・降水を評価するための降水ノモグラムを作成すること
  ・複数の事例を用いて同様の実験を行い、ノモグラムに爆弾低気圧による被害の特徴について一般性をあたえること
  ・地形解像度を細かくしてより細かい地形の影響を考察すること。

  今回作成した爆弾低気圧ノモグラムなどは、問題点を解決し、より良いハザードマップにしていくことで現象の理解の手助けになるとともに
  地域のハザードマップとして利用できることで防災や教育の現場において役立てることができると期待している。



謝辞

  卒業論文を進めるにあたり、指導教官である筆保准教授、有光教授そしてご協力いただいたすべての研究室の皆さんにお礼申し上げます。
 2年間ありがとうございました。
2017 3.15