2017年 3月
気象学研究室 塚本莉麻
1) 研究背景・目的
回転水槽実験は、大気循環を模擬する室内実験の手段として活用されている。
1947年以降研究が行われていたが、現在は学部生の教育や演示目的で使用されることが多く、
この実験は偏西風波動を簡易的に再現する為、学校教育における理科の実験教材として活用可能である。
しかし、回転水槽装置を学校教育の現場で活用するためには、高価である点、大型である点、発売されていない点などの問題がある。
これらの点を踏まえ、
@ 安価で小型な回転水槽実験装置を作成し、装置の精度と波動の発生条件を実験により解明する
A 教育現場での使用を検討するにあたり実験時間や映像撮影といった視点から検証を行う
以上2点を目的とし、回転水槽実験装置の教材化の研究を行った。
2) ソラ回しプロトタイプの作成
図2-1 ソラ回しプロトタイプ
部位ごとに分解可能な材料を使用したことにより、教室間の移動が可能になった。
また全重量を約1300gにするという軽量化に成功したことにより、児童生徒でも運搬可能な実験装置となった。
従来の回転水槽実験装置と比較すると、費用・大きさ・重量・水槽容量がそれぞれ99.8%・91%・98%・87%の縮小・削減に成功した。
付属機能を削減した結果、実験手順の単純化にも繋がっている。
@材料
表2-1 材料
A全体図
図2-1 全体図
詳しい作成方法はこちらで。
3) 実験
試験水槽水深・水路幅・温度傾度の3つの要素をそれぞれ変更し、計49回の実験を行った。
a.手順
1.回転水槽を設置し、外側水槽・試験水槽・内側水槽にそれぞれ温水・常温水・冷水を入れる。
2.試験水槽にアルミ粉を入れ、撮影台とカメラを設置する。
3.回転水槽の電源を入れる。
4.波数・発生時間を記録する。
b.結果
以下の表では、水路幅・水深・温度傾度の設定毎の実験において発生した波数を記録している。
表3-1 発生波数 水槽水路幅 52mm
表3-2 発生波数 水槽水路幅 38mm
表3-3 発生波数 水槽水路幅 23mm
以上の結果より、波動を発生させるためには
・試験水槽水深を深くする
・水路幅を大きくする
・温度傾度を大きくする
という3点が必要であることが分かった。
今回の実験では水深4cm以上、水路幅38mm以上、温度差15℃以上のとき波動が安定して発生する傾向があった。
4) 教材活用に向けて
a.撮影視点
今回は2視点で動画撮影を行った。
@気象衛星視点
…回転水槽上部に載せて設置し、映像は回転水槽の回転に連動して回転する。
A宇宙視点
…回転水槽の外側に設置し、映像は回転水槽の回転と連動せず固定した視点となる。
図a-1 気象衛星視点撮影台 図a-2 宇宙視点撮影台
それぞれの撮影台を使用した映像を検討した結果、@気象衛星視点ではジェット流を観察することが出来たが、
A宇宙視点では映像が回転しているため観察しづらく、@気象衛星視点の方が映像観察に適していることが
分かった。
b.所要時間
実際に授業内で使用するために必要な所要時間の検討を行った。
装置を設置するのにかかる平均時間と実験を開始してから波動が発生するまでの最長時間を計測した結果、
十分に一時間の授業内で活用可能であると考えられた。
5) 結論
・ 巨視的視点における気象現象の目視観察が可能である回転水槽実験を学校現場において活用可能にするため、
教材(ソラ回しプロトタイプ)を作成した。
・ 試験水槽の水深、水路幅、温度傾度を変化させて様々な条件で実験を行った。
結果、水深が深いほど、水路幅が大きいほど、温度傾度が大きいほど波動が
安定して発生することが分かった。
・ 撮影台を用いて実験における視点の検討を行い、ジェット流の観察において
気象衛星視点の方が観察がしやすいことが分かった。
・ 準備を始めとした実験の所要時間の計測を行い、一時間の授業内で十分に実験可能であるということが分かった。
2017/02/20 塚本