回転水槽実験によるリバースアース大気大循環の研究

~もしも北極が赤道よりも暑かったら~

2017年度 卒業論文
筆保研究室 佐久間光





1)研究背景と目的

回 転水槽は大気大循環のメカニズムを解明するための実験に用いられる装置であり、これを用いた実験では地球上の放射エネルギー移送によって生じる高緯度で冷 却された大気が低緯度で加熱され、地球の自転効果の影響が加わることで偏西風波動に蛇行が起こるという現象を室内に再現することができる。従来の研究では 既存の地球大気の再現に留まっていたが、本研究では地軸の傾きにも着目し、地軸の傾きが45度以上であった場合の地球を「リバース・アース」と名付け、 流体の可視化技術や画像のデジタル処理、波動のデジタル処理・解析技術を応用し、水槽内で発生した波動の数値的な解析からリバースアースにおける中緯度の 天気はどうなるのかを現実の地球と比較しながら明らかにすることを目的とした。

2)研究手法

従来の研究と同様に「水深」「温度差」「回転速度」の3つの設定を変化させ、 それぞれの条件下で生じた計72回の傾圧不安定波の観測・解析を行った。
①リバース・アー スの大気を再現するため、0℃、10℃、20℃ の3パターンの水温差で内側の円筒水槽が高温域となるように実験条件を設定した。
(図1を参照。)
②回転速度と波動発生の関連性を確認するため、水平方向に対して温度傾度が十分に与えられた状態の円筒水槽を反時計回りに回転させ、回転速度を1rpmから12rpmの 範囲で条件設定した。
③水深による波動発生の影響を検証するため、実験で用いた作業流体の水深は4㎝、8㎝の2つのパターンに設定した。



図1.リバースアース型回転水槽実験の温度設定


3)実験結果

①GrADS 画像による従来の回転水槽実験との比較では、これまでの実験結果とは対照的な東風ジェットが確認された。一方でジェットの蛇行は東進(時計回り)だけでなく、 実験設定によっては西進(反時計回り)及び停滞も確認され、3パターンの蛇行の移動が存在することが明らかになった。



図2.実験によって発生したジェットの蛇行


②安定図度表に全実験データをプロットした結果、通常の回転水槽実験と波動発生領域が重なり、温度差を逆転させた場合でも波動の発生がロスビー数Θ、テイ ラー数Tの理論値に沿って起こることが分かった。



図3.レジームダイアグラムを用いた実験結果


ホフメラー図を用 いた波動位相速度の解析では、本研究で観測された波動の位相の速さが最大でも約3.5×10
⁻²rads⁻¹であり、通常の回転水槽実 験と比較すると波動の位相角速度は総じて小さい値であることが分かった。5~8rpmの回転速度では波動の停滞、さらに回転速度を上昇させた9~~12rpmの 実験では波動の西進が生じており、Steering Flowの影響が推測される結果となった。(図4を参照。)



図4.実験データのホフメラー図(右から停滞、西進、東進の図)

図5.ホフメラー図から算出したジェットの蛇行速度と水槽の回転速度の関係

4)考察

得 られた実験データを現実の大気運動に照らし合わせたところ、リバース・アースにおける大気の運動では東風が生じ、蛇行の移動は自転の速度によって3パター ンに分けられると考えられる。(図6を参照。)



図6.リバースアースの天気の変化
 

5)まとめ

① 実験の実験の結果、リバースアースは地球とは逆向きの東風ジェットが発生し、天気が変化することが分かった。
②リアルアースの中緯度の天気はジェットの動きと自転の動きが一致しているため、安定して東進する。
→地軸の傾きが45度以下であることが安定した天気の変 化には重要

6)今後の展望

気 象分野の教育において、固定概念を逆さに見て考える研究手法が、豊かで新しい発想を育てる教育方法になり得るか検討していく。

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