閉鎖空間での温熱環境に対する人的効果〜NETATMO CUP 2018〜
2019年 3月
気象学研究室 東厚志
1) 研究背景・目的
2018年夏季、日本列島は「災害級の暑さ」と言われるほどの暑さに見舞われた。
気象庁では今年の夏を「災害と認識」した。その理由の一つは、7月23日、過去最高気温が観測されたことである。
「災害級の暑さ」は熱中症患者数にも影響を及ぼしている。
総務省消防庁は10月2日、4月30日から9月30日までの間に、全国で9万5073人が熱中症で救急搬送されたとの速報値を発表した。
労働健康安全機構より、熱中症が発生しやすい環境として、大きく5つに分類できるが、以下3点が日常的に発生しやすく危険度が高いと考えた。
@湿度が高い、風がない
A狭くて閉鎖された空間での作業
B直射日光が当たる場所、当たらない場所も危険!
本研究の目的では、過去最高気温が観測された今年の夏に、エアコンがない部室で、実験を行うことで、閉鎖空間での熱中症リスクを検証した。
この目的を達成するために、3つの課題を設定した。
1、室内で最も温度が高いのはいつか。
2、人は部室に影響を与えるのか。
3、部室は、人にどのような影響を与えるのか。
上記した3つの課題を検証し、閉鎖空間での熱中症リスクを考察した。
2)手法
NETATMOによる室内観測
NETATMO(屋内ステーション)では、気温(屋内)、湿度(屋内)、気圧、CO2、騒音の5つの要素を測ることができる。
気温、湿度、気圧の他に、周辺の二酸化炭素濃度を測ることができるCO2、
周りの騒がしさを測ることができる騒音がデータ化できることが特徴の一つである。r>
本実験では、人数を図る指標として、二酸化炭素濃度(CO2)を用いた。
図1 NETATMO観測結果グラフ
サーモグラフィによる表面温度観測
サーモグラフィは、人体への影響を調べる目的で使用した。
赤外線サーモグラフィは物体から放出された赤外線を受容し、物体表面の温度に変換して温度分布を示す装置である。
物体から放射される赤外線を受動的に検出するだけであるため、サーモグラフィからは何も放射されない。
また、測定するのは赤外線の波長ではなく、放射されたエネルギー量である。
そして測定するのは「表面温度」であるため、物体の内部や向こう側の温度は計ることはできない。
赤外線サーモグラフィを使用し、閉鎖空間における人体の表面温度の変化を測定した。
図2 サーモグラフィ観測結果画像
3) 結果と考察
3.1)室内で最も温度が高いのはいつか。
図3より、結論として、室内で最も温度が高いのは、晴れの日の昼間という結果が得られた。
また、室内温度と室外気温を比較すると、室内気温の方が3.3℃高いということがわかった。
室内外で温度差が最も生じるのは、曇りの日の夜である。
図3 室内温度結果グラフ
3.2) 人は部室に影響を与えるのか。
図4より、結論として、室内温度に着目すると室外気温が上昇していないにもかかわらず、
室内温度は著しく上昇しているため、CO2は温熱環境に温度上昇の影響を与えていると考えられる。
また、室内温度とCO2の相関関係図より、相関係数は0.43であり、
閉鎖空間では温熱環境に与える人的効果は存在すると考える。
図4 CO2結果グラフ
3.3)部室は、人にどのような影響を与えるのか。
課題3についての結論として、サーモグラフィを使い、表面温度を測定した熱画像より、
図5の0分の画像に比べ、図6の30分後の画像の方が赤い部分が多く、表面温度は上昇していると考える。
また、実験アンケートより、体感的にも人体の体感温度が上昇していることがわかる。
「暑すぎる」「息苦しい」などの不快感を強く訴える被験者が増加した時間帯は、「入室後、30分」である。
閉鎖空間での熱中症リスクとしては、晴れの日の昼が最も高温となり、
30分経過すると人体の表面温度上昇、かつ体感的に不快度が強くなり、熱中症リスクは高まると考える。
図5 0分のサーモグラフィ画像
図6 30分後のサーモグラフィ画像
4) まとめ
閉鎖空間での熱中症リスクについての結論として、晴れの日の昼間が最もリスクが高く、
閉鎖空間に10人で居続けると、30分が不快限界値であると結論付けた。
提案として、閉鎖空間では30分以上居続けない、30分以上の作業はしないことを推奨する。
5) 今後の展望
今後は、課題1、2の結論として考えた「閉鎖空間では、人的効果は存在し、人間から発せられる熱が影響していること」に基づき、
人体のどのような活動や運動が室内温度の上昇に関わっているのか、具体的な熱源を明らかにしたいと考えている。
以上のことを踏まえ、Bの結論として得られた人体の表面温度が上昇していることも考慮に入れ、検証したいと思う。
2019/03/25 東