ひまわり8号を用いた総観場と局地場を結ぶ地域気象教材の提案

2020年 3月

気象学研究室 中村望








1) 研究背景・目的

✓学力調査から見る「天気の変化」の課題
平成13年度教育課程実施調査
「天気とその変化」の通過率は12単元中5番目に低く、「天気図と衛生画像を関連付けて考察できる」は21.4%と非常に低かった。
  →天気図と衛生画像を結びつける思考に課題

平成18年度特定の課題に関する調査
「コップの表面上で何が起きるか」について29.3%の人が時間経過について言及し、結露と同じ現象として雲などの気象現象を挙げられたのが52.7%に留まっていた。
  →時間変化や気象現象との結びつきに課題

平成30年度全国学力・学習状況調査
自宅から南を向いた時の台風の風向を選択できたのが37.8%に留まった。
  →広域の気象情報と観測者が捉える現象を結びつけることや、空間・方位・時間の観点から気象現象を捉えることに課題

✓考えられる問題点
➀教材開発の難しさ
  →再現性がなく教材開発が進んでいかない
➁観察の難しさ
  →授業内で観察できる保証がなく、2月時点で半数近くの学校が実施中
➂教材とのギャップ
 学習内容と目にする現象が一致しないことも多く、それは地域特有の現象も多くなる

✓風を考える重要性とひまわり8号の可能性
風は総観場から局地場にスケールダウンしてもどの学習場面でも扱うことから学習の接続に役立つ可能性が考えられる。
ひまわり8号も、解像度が上がったことで詳細に見れるようになった他、自分が暮らす地域とその発生源である総観場の観察ができる。
  →地域ごとに変化しやすい風と広範囲から局地的な雲の様子を観察できる気象衛星に注目


✓目的
➀授業改善に必要なことを明らかにする
➁風の動きに注目することは有効であるか明らかにする
➂観察に適した時期を明らかにする

2)手法
✓アンケート調査
アンケート調査1
2019年1月中旬、横浜市立高等学校第1学年6学級(240名)に対し、それぞれの分野が好きかどうか、また、その理由についてアンケート調査を実施。

アンケート調査2
2019年7月中旬、川崎市立中学校第1学年1学級(40名)に対し、高気圧などについて知っていることを記述してもらった。
また、4種類の天気図の5地点の天気を予想してもらった。

アンケート調査3
2019年11月下旬、横浜市立中学校第2学年2学級(80名)と高等学校第1学年3学級(120名)に対し、2種類の天気図の10地点の天気を予想してもらった。
中学生には風の動きと雲の発生について指導をした事後変化についても調査を行い、風に注目した結果なのか検証するため高校生の結果と比較した。

✓解析
観察に適した時期を明らかにするため、気象衛星データとMSMの数値予報データを用いて解析を行った。
どちらも北緯34.6~36.0度、東経138.5~140.2度内の領域平均をし、2016年1月から2018年12月の3年間分のデータを用いた。
また、赤外データは雲がなかった場合、地表面温度を記録してしまうため、季節や時間変化による差が大きくなる恐れがある。
そのため、AMeDASの地上気温データを用いて、月平均気温や時間平均気温から偏差を取ることで季節補正値や時間補正値を算出し補正を行った。

3) 結果・考察

✓アンケート調査1
地学と気象のみ嫌い、とても嫌いという回答が多かった(図1)
その理由について回答を求めた結果、
地学のみ好きと回答していても授業が楽しかったという人が少なく、つまらないという回答が多かった。
他にも、他の分野では嫌いという回答に対する理由として、最も苦手意識を挙げていたにもかかわらず、
地学のみ授業がつまらないや実験・観察がつまらないという理由が多い傾向が見られた。(図2)
  →実験・観察の充実が授業全体の評価を高めるのではないか

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         図1:各分野の好き嫌い                    図2:分野別の理由

✓アンケート調査2
正答率の高かったものと低かったものを比べた結果、地点上に前線や低気圧などがあった方が正答率が高かった。また、クロス集計した結果、正答率が高い方ほど天気に関する正しい知識を記述している生徒が多い傾向があった。
  →日常生活内である程度の天気に関する知識を身に付け、それらを活用することで未学習者でも天気の予想を行うことは可能である。

✓アンケート調査3
天気図1、2共に事後において平均点が上がっており、有意差が見られた。(図3)
  →講義を行ったことにより変化したことが考えられるが、通常の知識の獲得が役立ったのか、風の動きに注目させた結果なのかは分からない。
特別講義を行った中学生と何も指導していない高校生を比較した結果、中学生の方が平均点も高く有意差も見られた。(図4)
  →風の動きに注目したことによって、天気の予想がしやすくなったことが考えられ、風が総観場と局地場の接続に有効であることが考えられる。

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         図3:中学生の事後変化                    図4:高校生との比較

✓解析1
同時刻同士の平均輝度温度分布を季節ごとに比較していくと、夏→春→秋→冬の順に輝度温度が低い(図5)
  →輝度温度が低いほど雲が発生している可能性が高いため、暖かい季節ほど雲が見られることが考えられる。
季節の変わり目だと考えられる前後月を除いた4か月は、どの領域でも夕方にピークを持つことが明らかとなった。(図6)

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     図5:各月の16時の平均輝度温度分布            図6:各領域の平均輝度温度の時間変化

✓解析2
考察を行うための解析から、風の収束域について見てみると、春から夏にかけて相模湾沿岸部で収束域が夕方に見られた。
また、それは雲が発生しやすい時間と一致していた。
  →赤木(2018)より、気温と海面温度の差が大きくなる春の方が海風が吹きやすいということが明らかとなっているため、
   春に観察することで雲の発生とともに観察することが可能と考えられる。

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         図7:4月の16時の平均収束域

4) まとめ

授業改善のためにアンケート調査を3つ行った。
➀授業評価の改善のためには実験・観察を重視した授業づくりが望ましい
➁風の動きに注目することは局地場の天気を考えるのにも有効

また、観察に適した時期を明らかにするために解析を行った。
➀夏>春>秋>冬の順に雲が発生しやすい。
➁山岳部>沿岸部>内陸部の順に雲が発生しやすい。
➂春から夏にかけて相模湾沿岸部で夕方に収束域が見られた。

以上の5点から、学校現場では春の時期に気象分野の学習を行い、午後の授業において観察時間を取り入れながら授業展開すること、
また、その際、風が吹く様子や雲の発生と結び付けながら展開することで、後の天気の変化を考えるときにも有効であることが考えられる。


2020/03/03 中村