高等学校における天気図を利用したPBL型授業の提案

2019年度 修士論文
筆保研究室 佐久間光





1)研究背景と目的

  高等学校地学の気象分野で は、学年や校種を跨って気象現象が起こる仕組みと規則性を理解させることが求められている。しかし、直接体験的な実験の難しさから、学習は理論的な説明に 偏り、生徒に問題意識を持たせにくい面や、主体的な学習を行いにくい面を有している。また、中学生・高校生の実態から基本的な知識の整理とその活用に主眼 を置いた、中学校段階と高等学校段階の学習をつなげる取り組みが求められる。
本研究では、こうした教科・生徒の実態を踏まえた上で、天気図の基本 的な理解や、今後の学習につながる見方・考え方の習得することのできる「生徒主体の授業」を地学基礎の実践の中に取り入れた。なお、新学習指導要領でも記 されている「主体的・対話的で深い学び」を実現するための活動として、天気図を用いたプロジェクト型学習を実践し、その上で高校地学の現状を捉え、高校生 の気象学理解度に合わせた学習教材を開発している。気象分野における生徒の基本的な知識の整理とその活用、さらに防災意識の涵養を目指した「天気図活用」 の授業を提案する。
 

2)研究手法

【授 業実践概要】
 2018 年に行った本研究の授業受講者は240人であった。全受講者を6クラスに分け、担当教員を分担して2講にわたり授業を実施した。第1講時の導入では、中学 校第2学年で学習する気象に関する基礎的・基本的な内容を振り返り、気象についての過去の経験や気象観測などの体験的な活動を想起するようにした。次に、 日常生活や社会と関連付けた話題を通して気象に関する興味・関心を高め、様々な気象現象について自ら探究しようとするよう試みた。展開部の前半では、気象 予報ができるまでの流れおよび天気図の専門的な「読み方」と、実際にラジオの音源を聞きながら各地の天気情報を記入する「書き方」の指導を並行して行っ た。なお、調べ学習やパワーポイント準備のため第2講時との間には1週間の期間を設けた。
 第2講時では第1講時で学習した天気図の「読み方」 「書き方」の知識、既存の知識、および調べ学習で得た知識を活用して、パワーポイントを用いた発表活動を行った。特定の時刻だけでなく、時間の経過と気象 現象の変遷を考え、考えたことをまとめて他者に説明するなど、発展的な内容となっている。授業の流れの詳細は第2章の研究授業の内容で示す。
地上 天気図の読み方の理解(習得)、天気図の作成(活用)、天気図の説明(探究)の3つの段階から生徒の多様な見方・考え方を働かせることをねらいとし、「地 学基礎」の発展的内容である「地学」の気象分野の学習に繋げることを目指している。一連の活動は、平成20年1月の中央教育審議会の答申において言及され た理科の改善の基本方針における「観察・実験の結果を整理し考察する学習活動、科学的な概念を使用して考えたり説明したりする学習活動、探究的な学習活動 を充実する」に即した教育実践であると考える。

【アンケート調査概要

  受講者の理科教育研究気象分野の授業に対する意識を調査する目的で、無記名式の調査用紙を用いて診断的(授業前)・総括的(授業後)なアンケート調査を行 い、受講者の理科に対する意識や、気象の講義への評価や難易度の適切さ、気象分野に対する意識の変化などを調査した(表2.2と2.3)。アンケート調査 では、評価や価値観などの「はい/いいえ」では測定しにくい話題に関する質問をする際に効果的な5件法 (リッカート尺度)及び、自由記述式で実施した。 
5件法に関しては回答者のありのままの意見を収集することができるよう、中立的選択肢を用意 し、非常に肯定を1、いくらか肯定を2、普通を3、どちらかといえば否定を4、否定を5とした。なお、調査用紙の回収率は診断的アンケートで91.7% (受講者240人に対し回収222枚)、総括的アンケートで91.3%(受講者240人に対し回収219枚)であった。記述式(テキスト型)データから、 生徒の地学を選択しない理由、授業における困難、および授業の感想を調査した。記述式(テキスト型)データの量的分析として、樋口耕一氏が開発したK- HCoderを用いて頻度分析と、共起ネットワークによる分析を行った。また、5件法(リッカート尺度)のデータを用いて、授業前後における生徒の意識変 化と授業評価について重回帰分析を用いて分析した。


図1.第1講時に 使用した天気図


3)実験結果

① 事前アンケート
  回答率は89.2%(Q9)~94.2%(Q2, Q3)の値を示した。設問ごとにみると、「Q1理科が好きである。」の平均が2.05となっており、調査対象とした生徒の理科に対する意識は高いことが示 唆される。しかし、「Q7天気図に興味がある。」や「Q3気象の学習が好きである。」はそれぞれ2.97と2.88となり、理科の他の分野と比較すると気 象分野や天気図の学習に対する意識は低いことが明らかになった。「Q8天気図を読んだり眺めたりして、理解するのは難しいと思う。」の平均は2.91、 「Q9天気図を自分で書くのは難しいと思う。」の平均は2.11となった。先行研究では、「書く」ことの難度について述べられていたが、生徒にとって天気 図を「読む」ほうが「書く」ことよりも難しく感じる傾向にあることが分かった。実際に天気図を「書く」作業を経験しておらず、生徒の判断基準が不明確に なっていたこと結果に表れたと推察される。また、「Q11天気図は日常生活に役立つと思いますか。」の平均は1.94と、事前アンケートの中で最も肯定的 な回答をする生徒が多かった。


②事後アンケート
  回答率は89.2%(授業評価)~93.3%(Q3, Q6)の値を示した。設問ごとにみると、「Q1今回の学習で、天気図の基本的な理解ができましたか。」の平均が1.84となっていた。調査対象とした生徒 のうち、88.5%の生徒が天気図の基本的な理解に対して高い評価(できた/ややできた)をしており、一連の学習の中で天気図の理解が深まったと思われ る。また、「今回の授業内容について評価」の平均値は1.64となり、87.4%の生徒が授業に対して高い評価(よかった/やや良かった)をした。「Q4 この授業を受ける前と比べて天気図を自分で書くのは難しいと思う。」の平均値は3.31となり、否定的な回答をする生徒の数が「Q3この授業を受ける前と 比べて天気図を読んで理解するのは難しいと思う。」に比べ多かったが、「書く」作業を始めて行う生徒もいる中において、課題の難度が高すぎるということは なかったと思われる。「天気図は日常生活に役立つと思いますか。」という質問を、事前アンケートQ11と同様に事後アンケートQ6でも行った。事前アン ケートの平均値が1.94だったのに対し、事後アンケートの平均値は2.07となった。2群間に対してt検定を行ったところ、p=0.148>0.05と なり、平均値間には有意な差がなかったため、授業前後で考え方に変化が生じなかったことが推測される。


事後アンケート (5件法)の重回帰分析の結果
  ランダムにデータを60個選択し使用した。目的変数を「今回の授業内容評価」、説明変数を「今回の学習で、天気図の基本的な理解ができたか。」、「この授 業を受ける前と比べて天気図を読んで理解することをどう思うか。」、「この授業を受ける前と比べて天気図を自分で書くことについてどう思うか。」、「天気 図は日常生活に役立つと思うか。」、「将来、気象予報士などの気象に関係する仕事に就きたいと思うか。」、「今後、理科の中から地学を選択して学習したい と思うか。」の6つとして重回帰分析を行った。
 重相関係数(0.677)、寄与率(0.458)、調整済みR(0.630)、調整済みRē (0.397)であり、残差正規性のSW(Shapiro-Wilk)検定確率の結果0.1036となり、残差の正規性および重回帰式の検定することは可 能とみなされた。算出した重回帰式の有効性の検定にはF検定値を用いた。その結果、F(6 , 53)=7.4642, p<0.005であり、この重回帰式は有効であるといえる。実験結果の一覧表を表1に示す。



表1.重回帰分析結果
                                                                                                                                                       
                                                                                                                                                           注1)点線上は標準偏回帰係数βと相関係数r
                                                                                                                                                         注2)*p<0.05 **p<0.01 ***p<0.005

  重回帰分析の結果、「今回の学習で、天気図の基本的な理解ができたか。」から「今回の授業内容評価」に対して有意な正の影響(β=0.497, p< 0.005)が見られ、さらに「天気図は日常生活に役立つと思うか。」から「今回の授業内容評価」に対しても有意な正の影響(β=0.264, p< 0.05)が見られた。以上の点から間處(2015)の「天気図の意味を理解し、実際に天気図を作成する一連の活動は、非常に高度な思考活動が要求される 学習となるため、天気の変化の理解を深める」を支持する結果であると考えられる。また、「この授業を受ける前と比べて天気図を読んで理解することをどう思 うか。(1非常に簡単-5非常に難しい)」、「この授業を受ける前と比べて天気図を自分で書くことについてどう思うか。(1非常に簡単-5非常に難し い)」から「今回の授業内容評価」に対しては有意な効果が見られず、授業前後における天気図の「読み方」と「書き方」の認識の変化が授業評価に影響を及ぼ さないことが分かった。さらに「今回の学習で、天気図の基本的な理解ができたか。」と「天気図は日常生活に役立つと思うか。」間には有意な正の相関がみら れた(R=0.401, p<0.01)。
 重回帰分析の結果から、知識の基本的な理解を促すことが、学習を日常生活と関連付ける上で重要 な役割を果たすことが示唆された。本研究授業では、地上天気図を用いて実際の災害を伴う気象現象を分析する活動を行った。実際に知識と資料を活用して予測 することができたという経験が、「天気図は日常生活に役立つ」という考えを引き出したと思われる。今回の授業では天気図と併用する参考資料の選択を生徒に 委ねたが、教師が天気を推測する上で効果的な資料を提示することで、天気図の活用の幅が広がり「天気図は日常生活に役立つ」という考えが生じ易くなると思 われる。

④自由記述のデータ分析
 総括的アンケートのQ10「天気図を説明する活動はいかがでしたか?難しかった点や、頑張った 点」の自由記述について分析を行った。用いたデータの総抽出語数は3458語(そのうち1476語使用)、異なり語数は547語(そのうち408語使用) であった。プロトコル中で関連の強い言葉を線で示した共起ネットワークに関しては図2に示す。「難しい」が最も多く122回出現し、次いで「天気」が 102回出現した。また、「予想」と「前線」という言葉も多く出現した。
 図2から「天気」に関しては「予想」と同時に使われることが多く、気象 知識を活用(天気を予想)する活動に最も難しさを感じたことが推測される。また「班」という言葉が共起ネットワークの中心として多くの言葉とつながってお り、集団での学習体系、特にプレゼンテーションの活動に注力したことが伺える。
 気象現象に関する用語の出現回数でみると、「前線」の25回を筆 頭に、「気圧」24回と続いていた。共起ネットワークから、これら気象現象に関する単語は「推測」および、「天気」から「予想」へとつながっており、天気 図上の前線や気圧を天気の主な判断材料として使用していることが分かった。また、「等圧線」は5回しか出ておらず、風に関する記述も出てこなかった。
  「雨」と「範囲」の共起の強さから降水域の判断をすることが天気図から各地の天気を予測する活動の中で生徒が難しさを感じた点であると思われる。また、同 じ文脈グループの中に「曇る」、「雨」、「判断」も強い共起を示しており、雲量の判定することも難しいということが分かった。これらの点から、限られた情 報の中から天気(降水域や雲量)特定するための配慮や、どこまでを生徒の正しい推測とするかといった達成の基準を明確にすることが求められる。
  活動に関する記述を明確化するため、動詞のみを抜き出したところ、「分かる」、「見る」、「読み取る」といった、天気図を読む活動に関するものは42回確 認できた。また、天気図を書く活動と天気図の情報を伝える活動に関する動詞はそれぞれ17回、74回であった。このことから実際のラジオ放送を聞いて天気 図を「書く」ことよりも、「読む」「説明する」ことに難しさを感じた生徒が多かったことが推測される。



図2.共起ネットワーク(結びつきの強い語を示す。円の大きさは語の頻度、共起の強さは線の太さ、同じ色は文脈で出た傾向を表す。)

4)追加調査・考察

【追加調査概要】 
 2018 年に実施した授業では、生徒から高い評価とともに肯定的な記述を数多く確認することができた。また、一連の学習の中で「天気図の基本的な理解ができた」と 回答する割合も高かったことから、中学校の知識を振り返りや、地学基礎の目標でもある「地学の基本的な概念や原理・法則を理解させ,科学的な見方や考え方 を養う。」という点で効果があったことが推察される。
 有意な差ではないものの授業を通して「天気図は日常生活に役立つ」と肯定的に感じる生徒の 割合が減ったことから、第2講時における天気図知識を活用し日常生活と関連付けて考察する課題の提示の仕方に改善の余地があると考えられる。また、実験結 果から課題の提示の仕方を改善することにより生徒の授業評価は高まることが予想される。
 Allenほか(2006)では「気象学の事前知識は天 気図理解度を説明する有意な変数となる。」としており、第1講時の授業や調べ学習において、気象知識が不足していたため、第2講時の「伝える」活動におけ る場(天気図)の再構築化が困難になったと考えられる。また、「読み取った気象状況に加えての推論が必要される課題においては 、気象学事前知識と閉合柔軟性によって、58%が説明される。」北野ほか(2010)という点や、共起ネットワークの記述分析の結果から、地上天気図内の 複数の情報を整理することが困難であったと思われる。実際に、各班で調べ学習の程度には差があり、天気図を科学的分析のもと捉えることができていない班も 見受けられた。また、授業後に天気図「書く」ことに対して難しさを感じる生徒も一定数存在していた。
 以上の点から、第1講時の天気図を「読む」 際の手立てとして中学校段階の気象学の知識を整理する必要があると考えた。授業時間を増やすことはできなかったため、事前アンケートの中に課題を用意し、 中学校段階の学習を振り返るようにした。「書く」活動では、共起ネットワークの中で「ラジオ」と「聞き取る」「聞く」が同時に出ていたことから、音声の聞 き取りに困難が生じていたことが示唆された。そのため、NHKラジオ第2「気象通報」の音源をそのまま使用するのではなく、ラジオ放送の内容を教師が読み 上げるように変更した。第2講時の天気図を「伝える」活動の手立てとして、学習中の追加の視覚情報が生徒の理解を促す視覚的強化になる点を考慮しRapp (2007)らが行ってきたように、追加の視覚情報を被験者に提供した。実際の現場での準備が容易である地上天気図の日時と一致する可視画像、赤外画像を 事前に配布することにした。赤外画像は地学基礎の必修内容ではないものの、天気図と併用することで天気予測の有効な資料となる。実際に平成31年度セン ター試験でも赤外画像と天気図を併用する問題が出題されており、複数の資料や図を活用する問いは増加傾向にある。また、共起ネットワークで現れた降水域の 判定や雲量の推測、雲の種類の判別など、視覚的に天気図を捉えることを促進すると思われる。天気図を3次元的に捉える上で高層天気図の提示も候補にあがっ たが、地学基礎では扱わない点や地上天気図とは表現方法が異なる点を配慮し、今回は使用しなかった。上記の変更点を除き、2018年実施の授業と同じ流れ で2019年11月より追加調査を行った。

【事前アンケート結果】
2019年実施の事前アンケートの回答率は83.8% ~83.6%の値を示した。「理科が得意である」(t検定p=0.0023<0.05) 、「天気図を読んだり眺めたりして、理解するのは難しいと思う。」(t検定p=0.001<0.05)、「天気図を自分で書くのは難しいと思う。」(t検 定p=0.023<0.05)の3項目に有意な差が見られたため、2018年と比べ2019年に調査した生徒は理科が得意な一方で、天気図の読み書きに関 しては苦手意識を持つ傾向にあることが分かった。他の項目については有意差が見られなかった。

【事後アンケート結果】
2019年 実施の事前アンケートの回答率は73.3%~78.8%の値を示した。「天気図は日常生活に役立つと思いますか」(t検定p=0.0021<0.05) 、「将来、気象予報士などの気象に関する仕事に就きたいと思いますか」(t検定p=0.0121<0.05)、「今後、理科の中から地学を選択して学習し たいと思いますか」(t検定p=0.0058<0.05)、「今回の授業内容について評価お願いします」(t検定p=0.0016<0.05)の4項目に 有意な差が見られた。
一方、「この授業を受ける前と比べて天気図を読んで理解することをどう思うか。」と「この授業を受ける前と比べて天気図を自 分で書くことについてどう思うか。」の2項目では有意な差は見られなかった。「この授業を受ける前と比べて天気図を自分で書くことについてどう思うか」& 「この授業を受ける前と比べて天気図を読んで理解することをどう思うか。」

【考察】
 5件法の分析結果および、共起ネットワーク の結果から、ラジオ通報の使用のあり方が生徒の「書く」活動の難度を左右すると推測し、教師が読み上げるように変更した。2018年に調査した生徒と比較 し2019年の生徒は天気図を「書く」ことに対して苦手意識を持っていたにも関わらず、事後アンケートの結果からは差が生じなかった。このことから「書 く」難度の緩和に作用したものの、その影響は僅かなものであったことが示唆される。
専門家も使用する実際のラジオ通報に挑戦することが生徒の学習 意欲を引き出すと推測したが、2018年の記述アンケートや重回帰分析の結果から、難しい課題に挑戦することが授業評価につながることはなく、2019年 の調査でも授業内容の評価が下がることはないと考えられる。本研究の実践のように「書く」活動を通して、
①基本的な知識の整理
②低気圧・高気圧・前線が関連した現象であることの理解
③各現象が等圧線にどのように作用しているかを生徒自身が実感する
の3 点を目的としている場合や初めての天気図を「書く」活動をする生徒が多い場合は、教師が読み上げる形式とラジオ通報を使用する形式に大きな差異は無いと思 われる。天気図の「読み」の理解でも、大きな改善は見られなかったことから、事前アンケートにおける学習課題が効果的に作用しなかったと思われる。本研究 実践では充分な時間を確保することができなかったが、生徒の習熟度に応じて中学段階の基本的な知識を整理する時間を設けた方が良いと思われる。

 2018 年の調査では「天気図は日常生活に役立つと思いますか」の質問に対し、授業前後で有意な差が生じなかったが、2019年の調査では「天気図は日常生活に役 立つと思いますか」は授業後に肯定的な回答が増えた(t検定p=0.0182<0.05)。可視画像・赤外画像といった追加資料の提示によって「日常に役 立つ」と考える傾向が強まったと考えられる。
 生徒の大きな変化として、第2講時の発表の中で2次元の地上天気図に対して、雲の厚さや等圧線の関 係などを3次元的に捉える傾向が2018年の実践よりも多かったように思われる。また、発表内容も科学的根拠に基づいたものが多かったため、生徒が難しさ を感じる雲量や降水量の判断材料を天気図から集めることが容易になったと推測される。以上の点から、天気図を上手く活用できたという経験が日常生活におけ る有用感に繋がったと考えられる。2018年の調査結果をもとに、教師が天気を推測する上で効果的な資料を提示することで、天気図の活用の幅が広がり「天 気図は日常生活に役立つ」という考えが生じ易くなり、結果的に授業評価も高まるという仮説を立てた。「天気図は日常生活に役立つと思う」と「授業内容の評 価」が同時に改善されたことによって、この仮説は支持されたと思われる。また、班ごとに進捗や理解に差が生じにくくなり、追加資料の提示が授業時間内に見 通しを持たせ、プレゼンテーション作成を促すという点でも非常に有効であったと思われる。

 「将来、気象予報士などの気象に関する仕事に 就きたいと思いますか」と、「今後、理科の中から地学を選択して学習したいと思いますか」は2018に比べ有意に改善された。特に「今後、理科の中から地 学を選択して学習したいと思いますか」は授業前後で肯定的な回答が増えた(t検定p=0.0011<0.05)ことから、「生徒主体の授業」を目指した 2019年の実践が高校生の学習動機に大きく作用していたことが示唆される。プロジェクト型学習の特性上、教師はファシリテーターの立場から活動の支援を 行うようにしなければならない。2019年の実践では、図の活用法や見方・考え方を引き出すため可視画像・赤外画像を提示した。これらの配慮が見通しを持 ちながら主体的な学習を行う上で効果があり、学習に対する目的意識や考えの変容に作用したと思われる。

5)まとめ

 & nbsp;本研究では、 高等学校第1学年の生徒を対象とした地学基礎「日本の自然環境」気象分野の授業実践およびアンケート調査に基づき、高等学校における天気図知識の習得とそ の活用を両立できるプロジェクト型学習の効果と内容を検討した。240名の生徒の対象に授業を行い、授業前後のアンケートに対してK-H coderによる共起ネットワーク分析と重回帰分析を行った。2018年の調査結果を基に授業改善を行い、2019年も同様の調査を行った。これらの結果 は以下のようにまとめられる。
 共起ネットワークの結果から、学習内容を選択できる高等学校において生徒は興味や関心をはじめ、進路や受験といっ た将来に活用可能な知識を習得できる科目を選択することが明らかになった。2019年実施の授業後のアンケート調査の結果で93.2%の生徒が肯定的な回 答をした点、「今後、理科の中から地学を選択して学習したいと思いますか」が授業前後で増えた(t検定p=0.0011<0.05)点から、生徒主体で知 識を活用することに重点を置いた本研究のプロジェクト型学習が、高校生の学習動機に準じていたことが示唆される。
 2018年実施の重回帰分析の 結果から「基本的な知識」と「日常生活に使える」と考えた生徒が授業を高く評価していた。2019年の調査では、天気図を「読む」「書く」「伝える」一連 の活動によって、90.4%の生徒が生徒の天気図における「基本的な知識」の整理に肯定的な回答をしたことから、知識伝達型の学習に依らずとも、「読む」 「書く」といった実際の資料を用いた活動を行うことで、中学校段階における天気図の知識を振り返りや地学基礎の目標でもある「地学の基本的な概念や原理・ 法則を理解させ、科学的な見方や考え方を養う。」を達成する上で効果があると考えられる。
 授業実践や認知科学の先行研究から、天気図教材を作成 した。初めて天気図を「書く」活動をする生徒が多い中で、難度が授業評価に影響を及ぼさなかった点から、初心者でも扱いやすい教材になったと考えられる。 また、「伝える」活動の中で生徒が難しさを感じる、天気図上から雲量や降水量の判断することに対しては、天気図と併用して可視画像・赤外画像を用いること が情報整理を促し、天気図の活用の幅が広がり「天気図は日常生活に役立つ」という考えが生じ易くなったと示唆される。実際に2019年調査の「天気図は日 常生活に役立つと思いますか」は授業後に肯定的な回答が増えた(t検定p=0.0182<0.05)。


図3.本研究の構造
 


6)今後の展望

 
プ ロジェクト学習の実践では、ポートフォリオを用いて生徒の見方・考え方の変容を捉えることが有効だという意見が数多く報告されている。本研究の授業実践で は、授業時数の制限からポートフォリオを用いることができなかったため、単元を通してポートフォリオを活用して調査することは勿論、中学校・高等学校間と いった長期的な活動の中で、生徒が天気図に対する思考がどのように変化するのかを読み取ることが望まれる。さらに、重回帰分析の結果をもとに授業前後のア ンケート項目を精査することも考えられる。授業実践後のアンケート調査の結果から「基本的な知識」と「日常生活に使える」ことが生徒の授業評価に大きく作 用していたことが明らかになったが、他の要因も作用していたことも示唆される。授業改善および、研究の基準となる授業調査アンケートを確立する上でも心理 学や認知科学の面から検討をする必要があると考えられる。