ソラネタリウムを利用した気象教材の開発と教育効果の検証

2023年3月

筆保研究室 長谷川由佳

 1)背景と目的

   小学校学習指導要領においては、児童生徒自身が観察や実験を中心とした探求の過程を通じて、学習に取り組むことを重視している。
しかし全国学力・学習状況調査の結果より、児童生徒が観察や実験をする授業を行った頻度は小中学年ともに減少している。
また気象分野においては、時間および天候、季節に左右されやすく、既存のカリキュラムでは体験的な観察実験を行うことは難しい。
筆保研究室のこれまでの研究では、実際の観察に代わる教材として、天文分野で積極的な活用がされているプラネタリウムを気象分野でも活用できる「ソラネタリウム」を提案している。
本研究では、ソラネタリウムの課題を解決して、小中学校の気象分野の学習で活用できる気象教材の開発とその教育効果の検証という二つの目的を設定した。

 2)手法

  2.1)魚眼レンズカメラを用いた屋上観測

   まず横浜国立大学第二研究棟屋上(図1)にて、魚眼レンズカメラ(図2 CASIOのEXILIM EX-FR200)を用いた定常的な観測を行った。

           

            図1 カメラ設置場所

           
            図2 CASIO EXILIM EX-FR200

   撮影間隔は15秒で合計351日撮影し、十種雲形や降水前後の空の様子、台風の前後の空の様子、大気光学現象、月の満ち欠け、皆既月食、太陽の軌道などの様々な現象を捉えることができた。

  2.2)気象教材の開発

   2.1の観測で得た全天周画像を用いて、タイムラプス動画を作成した(図3)。またタイムラプス動画で観測した現象の原理を説明する解説動画を作成し、ソラネタリウムに投影する気象教材を開発した(図4)。
実際に投影したソラネタリウム動画はYoutubeに限定公開しています。視聴はこちらから                       図3 タイムラプス動画の抜粋                       図4 解説動画の抜粋    気象教材の開発では、小学生がきちんと理解して楽しめる内容を目指し、難しい現象を段階的に丁寧に解説したり、視覚的に理解できる図を取り入れたり、
上映中に児童生徒が身体を動かす実験を行ったり、ナレーションやBGMの挿入をしたりなどの工夫をした(図5)。                       図5 光の三原色 実験道具(左)と実験の様子(右)

 3)結果と考察

    教育効果の検証では、出雲科学館のプラネタリウムにて、計34名の小中学生を対象としたソラネタリウムの上映と紙面調査の実施を行った。
紙面調査では、気象教材で取り上げた内容への理解度を測ることや身の回りの気象に関する意識調査、動画教材の改善などを目的として、
ソラネタリウム視聴前後に知識チェックと理解度テスト、アンケートの実施の計3枚の紙面調査を行った(図6)。図7のグラフは実践前後の正答率を比較したものである。
実践前の平均正答率は57.5%に対して、実践後の平均正答率は88.6%と30%以上増加している。また全ての問題で正答率が増加していることがわかる。
            図6 光の三原色 実験道具(左)と実験の様子(右)       図7 ソラネタリウム実践前後の正答率    動画教材の開発と教育効果の検証を通して、ソラネタリウムを視聴した児童生徒が空で起こっている現象への理解を深めたり、気象分野への関心を高めたりする様子を確認することができた。
本研究は、小中学校の気象分野の学習において、プラネタリウムを用いた気象教材を取り入れるための大きな一歩になったと考える。
ソラネタリウムはドーム状のスクリーンに投影することで初めて、プラネタリウムの持つ没入感やより現実に近い形で観測できるという利点が生まれる。
こういったソラネタリウムのよさを残した上で、様々な人がいろいろな場面で利用できる教材として活用できる環境を整えることが重要だと考える。

 4)まとめ

  ①気象教材の開発
・一年を通して屋上での撮影を行い、冷却装置の改良を経て、夏の暑い日の撮影に成功した。
・屋上で撮影した空の画像を用いて、過去の課題を改善し、大気現象を小中学生に向けて解説するソラネタリウム教材を開発した。
②教育効果の検証
・作成したソラネタリウム教材をプラネタリウムに投影し、小中学生への実践をした。
・実践前後に調査を行い、教育効果を検証した。その結果、ソラネタリウム教材が教育的に有効だとわかった。
・視覚的にわかりやすくする、面白さも追及するなど、いくつかの改善点を得た。
今後の展望と課題
・教育効果を高めるためにソラネタリウム教材の改善に取り組む。またソラネタリウム教材を組み込んだ授業実践をするなどして、長期的な教育効果の検証を行う。

  謝辞

    今回の研究にご協力いただいた出雲科学館の皆様、タマヤ計測システム株式会社の皆様、
筆保研究室のメンバーに心より感謝申し上げます。
  2023/03/22 長谷川