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卒業論文
回転水槽実験による傾圧不安定波に対する地形性β効果の解明

2024年3月 大橋 明日香

研究背景・研究目的
 本研究室において、回転水槽実験を用いた地球模擬実験や台風模擬実験に関する研究が行われてきたものの、地形性β効果を考慮した地球模擬実験は未だ行われていない。そこで本研究では、地形性β効果、及び逆地形性β効果を底面装置により考慮した地球模擬実験を行った。目的は以下の2つである。

▲底面に設置した傾斜装置(地形性β効果4 cm,2 cm,逆地形性β効果4 cm,2 cm)

1.地形性β効果及び逆地形性β効果を与えた実験において、発生する波動にどのような影響が見られるかを検証すること。
2.水深や回転速度などのパラメーターを変化させて波動発生条件を見ること。

研究手法
①準備
 条件に合わせて水温を安定させる。その後、条件に合わせた底面の傾斜を設置し、水深を調整する。実験水槽に水を入れたタイミングで水温が不安定になるので、安定するまでしばらく待つ。カメラを設置する。SDカードと充電を確認し、ネジでしっかり固定する。ディスプレイに映す場合は、ワイヤレスエクステンダーを接続しておく。
②実験
 録画を開始した後、回転を始める。回転速度を変化させるときは、ゆっくりつまみを回す。実験開始時と終了時の時間・気温・水温・実験条件を記録する。内側水槽の水深は常に変化するので、常時監視し調整する。
③解析
 撮影した動画を画像処理する。その後、得られた画像をPIV解析にかける。得られたデータをFortranプログラムを用いて解析し、GrADSで描画する。また運動エネルギーを算出し、分析する。

結果
①卓越波数と回転速度の関係

▲全実験の波動分類

・地形性β効果実験
 回転速度の増加と共に卓越波数が増加し、軸対称流、定常波動、不規則運動の順で変化していった。他の底面条件に比べ、定常波動の生じる条件が多かった。定常波動は、地形性β効果2 cm水深6 cm実験で最も生じやすく、次いで地形性β効果2 cm水深 4cm、地形性β効果4 cm水深6 cmであった。
・逆地形性β効果実験
 他の底面条件に比べ、顕著に定常波動が生じ辛く、不規則運動が多かった。
・フラット実験
 回転速度の増加と共に卓越波数が増加し、軸対称流、定常波動、不規則運動の順で変化していった。定常波動は3~7 rpmの範囲で生じていた。

②KEと回転速度の関係

▲底面条件ごとのKEと回転速度の関係

 いずれの底面条件においても、回転速度の増加とともにKEは減少していた。

③EKEと回転速度の関係

▲底面条件ごとのEKEと回転速度の関係

 定常波動が生じやすい3~7 rpmでEKEの値がピークを迎えており、その後は減少している。地形性β効果実験とフラット実験では同様の傾向が見られるが、逆地形性β効果実験ではピークが明瞭でなく、平均的なEKEの値も小さい。

考察
 逆地形性β効果実験では、底面の形状により対流が阻害されるため、うまく波動が生じなかった。そのため定常波動が生じにくく、EKEも小さく算出されたと考えられる。
 KEは回転速度の小さい、つまり卓越波数の小さい定常波動、及び軸対称流などの領域で大きく算出されていた。これは、波による粒子の蛇行が少ないため、速度が大きく算出されるためであると考える。
 地形性β効果実験では、水深に対する傾斜の影響が小さい方が定常波動が生じやすいことが分かった。つまり、惑星において南北渦度傾度の小さい、相対的な高緯度側で傾圧不安定波が生じやすいと考えられる。

結論
・逆地形性β効果実験においては、その他の条件に比べ定常波動が生じづらかった。
→水槽内の対流がうまく生じていないため。
・卓越波数、及び回転速度の小さい条件においてKEは大きく算出された。
→波の蛇行が少ないため、速度が大きく算出されたため。
・地形性β効果実験では、南北の渦度勾配が小さい方が傾圧不安定波が生じやすいことが分かった。

今後
 水深と傾斜の比を変えた実験を行い、考察の検証を行うこと。また、南北渦度勾配が小さいほど波動が生じやすいことの考察を深めること。


謝辞
 本研究にご協力いただいた筆保先生、タマヤ計測システム株式会社の皆様、及び筆保研究室のメンバーに心より感謝申し上げます。