2025年度 卒業論文

定量的な雲率検出手法の開発と
月平均雲率の季節変化および年々変動

横浜国立大学教育学部 教員養成課程
筆保研究室 中西希和

目次

 

研究背景


  雲は気温をはじめとする様々な気象要素に影響を及ぼしていると考えられるが、そのように雲が気象要素に与える影響についての研究は十分に行われていない。その背景には、雲量が目視によって観測される指標であり、0~10の整数値でしか記録されないことがある。さらに、現在目視による雲量観測が実施されているのは、気象庁(東京)と大阪管区気象台の2か所のみであり、観測頻度も3時間ごとに限られている。そのため、雲量と気象要素との詳細な関係を解析することはこれまで困難であった。
 そこで、本研究室において11年間にわたり常時撮影している全天カメラ画像を用いて雲量を自動かつ定量的に算出することができれば、雲量と気象要素との関係の解明に加え、雲量の季節変化や年々変動の解析も可能になると考えられる。その際、本研究室にて継続的に実施されているそら観測による雲量データ、およびSORA-oシステムの気象観測データを活用することが可能である。以上を踏まえ、本研究では次の2つを目的とした。
  • 全天カメラ画像を用いて、定量的な雲率検出手法を開発すること
  • 開発した手法を用いて、大学上空における雲率の季節変化および年々変動ならびに気象要素との関係を明らかにすること

  •  ただし、気象庁による雲量の定義は「全天空に占める雲に覆われた部分の割合をいい、0から10までの整数で表す。」とされている一方で、本研究では雲の割合を0~100までのパーセンテージで表すことから、本研究で算出する雲の割合のことを「雲率」ということとする。
     また、本研究では雲の定義を、「①空の青色とは異なる②周囲の空の色と比較して明瞭な明るさや色の違いがある③空との境界を有する。これらのいずれかに該当する領域」とした。

     

    研究手法

    全天カメラ(PSV-100W)について
      全天カメラユニットと遮蔽装置からなり、遮蔽装置は、設定した緯度・経度等の情報から太陽位置を自動計算し、直射日光が当たらないよう遮蔽版を回転させる。また、2014年5月8日に設置されて以降、所々欠損はあるものの現在まで撮影されている。

    システム概要


    ▲全天カメラ(PSV-100W) 
    ※右側に遮蔽装置がついている

    長期気象観測SORA-oシステムについて
      風向・風速・温度・湿度・雨量・気圧・日射・空の現況を1分インターバルで観測する測器。

    システム概要


    ▲長期気象観測SORA-oシステム測器部分

    研究結果

    雲率検出手法の開発
    雲率検出手法の手順


    ▲雲率検出手法のフローチャート

      画像解析による雲検出を行う際、最も大きな課題となるのが太陽光による影響である。太陽は非常に明るく、画像上では太陽付近で白とび(ハイライトによって情報が失われる現象)が起こりやすいため、本来の雲領域と空領域の区別が困難になる。特に薄い雲や太陽付近で発生している雲などの場合には、太陽光による影響で誤検出が増え、検出精度を著しく低下させる。
     そこで本研究では、空が雲で広く覆われているときには太陽光による影響が小さく、反対に全く覆われていないときには影響が大きいという前提のもと、雲がおおよそ全天を覆っており太陽光の影響を受けにくい「all cloud画像」、雲も青空もありある程度太陽光の影響を受ける「cloud画像」、雲がほとんどなく太陽光による影響を強く受ける「clear画像」に分類しそれぞれで処理を行うこととした。

    手順①


     太陽の有無により「all cloud画像」を分類するとともに、空領域と雲領域のピクセル数から 「all cloud画像」に分類された画像の雲率を算出する。

    ☞太陽領域を[H=0 / S=0 / V=255]、空領域である青色範囲を[H=90~140 / S=100~255 / V=0~255]と指定し、対象領域を検出する。

    ☞分離の条件は「太陽領域が存在しない、かつ青色領域(空領域)が過半数に満たない画像」とし、当てはまるものを「all cloud画像」として抽出する。

    ☞指定した青色領域のピクセル数(青pix)、遮蔽板などを予めマスクした黒色ピクセル数(黒pix)、それら以外の領域を白くマスクした白色ピクセル数(白pix)、さらに解析範囲である円形領域全てのピクセル数(円pix)をそれぞれ数え、それらの割合から雲率を求める。

    雲率 =(白pix)/ {(円pix)-(黒pix)}

    手順②


     雲領域と空領域の境界線であるエッジを検出することで雲の有無を判別し、「cloud画像」または「clear画像」への分類を行う。


    ▲手順②

    手順③


     「clear画像」「cloud画像」ともに、空領域である青色範囲を[H=90~140 / S=70~255 / V=0~255]と指定し、対象領域を検出する。


    ▲手順③

    手順④


     太陽による誤認識を減少させるために、エッジによる補正を行う。

    ☞③の処理によって雲領域と認識された領域内から、[ エッジが無い箇所 = 雲がない = 太陽光による誤認識箇所である ]とし、その誤認識領域を空領域に戻す(青に塗り直す)処理を行う。

    ☞最終的な、青色領域のピクセル数(青pix)、黒色ピクセル数(黒pix)、雲領域とする白色ピクセル数(白pix)、そして円形ピクセル(円pix)をそれぞれ数え、「all cloud画像」と同様に雲率を求める。


    ▲手順④ 左:元画像 中:エッジ補正なし 右:エッジ補正あり


    ▲手順④

    開発手法の精度評価

    そら観測による雲量との比較

     本研究室で長年実施されてきた毎平日16時のそら観測による雲量データ(計378個)を真値として用いた。その結果、日別16時データでは、雲量0および雲量10画像では誤差が約0~5%程度であるものの、雲量中程度の画像には、約30%前後の誤差が生じる傾向が確認された。
     また、月平均雲率と真値データの月平均値とを比較した場合、本手法による雲率は目視観測による雲量の変化傾向を良好に再現しており、そら観測による月平均雲量との相関係数は0.93であり、誤差は10%未満であった。


    ▲ 左上:日別雲率の散布図 左下:日別雲率の誤差 右上:月平均雲率の散布図 右下:月平均雲率の誤差


    ▲月平均雲率および月平均雲量(そら観測)の月変化 
    (青:月平均雲率 赤:月平均雲量(そら観測))


    本手法は月平均雲率において、雲率の定量的な検出方法として妥当であると考えられる。

    雲率データを復元した結果

     この手法の検証では2023年~2年分しか行っていないが、これまで全天カメラで撮影されてきたデータを用いて11年分の雲率データを復元した。
     なお、欠損日の割合が25%以上であった月は解析対象外とした。


    ▲過去11年分の月平均雲率データを復元した結果
    (青:月平均雲率 赤:月平均雲量(そら観測))


    月平均雲率の季節変化
     本研究において開発した雲率検出手法を用いて、2014年から2024年までの11年にわたる16時の全天カメラ画像を解析し、大学上空における雲量の季節変化を明らかにした。その結果、月平均雲率には明瞭な季節性が認められ、冬は約40%前後と低く、梅雨の時期にあたる6, 7月から10月にかけては80%近くまで高くなる傾向を示した。


    ▲月平均雲率の季節変化(2014年~2024年)


    雲率と気象要素との関係

    SORA-oデータとの比較

    2014年5月8日から2024年12月31日までの期間を対象として、月平均雲率とSORA-oにより観測された各気象要素の月平均値との散布図を作成し、またその相関係数も算出した。採用したSORA-oによる気象要素は、“気温/湿度/日射/気圧/平均風向/平均風速”である。なお、四捨五入して絶対値が0.4以上の場合相関があるとした。
     気温と湿度の月平均値と月平均雲率との間には強い正の相関があった。さらに、日射量と月平均雲率との間には弱い正の相関、気圧と月平均雲率との間には弱い負の相関が認められた一方で、平均風向および平均風速と月平均雲率との間には、明瞭な相関関係は確認されなかった。


    ▲ 月平均雲率と各気象要素との相関関係

    各気象要素と月平均雲率との関係
    気温
    月ごとに解析を行った結果、。全体的に負の相関が見られるものの、特に7~9月は強い負の相関が連続して見られた。雲が多い年ほど気温が低い傾向が見られ、特に夏が顕著であった。


    ▲ 気温と月平均雲率における各月の散布図及び相関係数

    雲により日射が遮られ地表の温度が低下する“日傘効果”による影響だと考えられる。

    湿度
    両者の間には年間を通じて一貫した正の相関が見られ、雲率の増加に伴って湿度が上昇する傾向が確認された。さらに、季節的には、冬に雲率及び湿度がともに低く、夏には両者がともに高くなる明瞭な季節変化がみられた。


    ▲ 湿度と月平均雲率における各月の散布図及び相関係数

    本研究では雨の場合も含んでいるためだと考えられ、
    相対湿度の季節変化が雲率の季節変化に直接影響を及ぼしている可能性を示唆している。

    気圧
    10~2月にかけては正の相関が見られ、気圧が高い年ほど雲率が増加する傾向が見られた一方、5月や8月は強い負の相関が見られ、気圧が低い年ほど雲率が増加する傾向が確認された。


    ▲ 気圧と月平均雲率における各月の散布図及び相関係数

    平均風速
    所々正の相関が見られるものの、多くの月で負の相関が見られた。特に強い負の相関が連続して確認された7~9月においては、風速が弱い年ほど雲率が高い傾向が見られた。負の相関が連続して見られた7~9月のみの相関係数はr = -0.59 とやや高いことから、特に夏の場合には雲が少ない年ほど風が強い傾向が見られた。
     さらに、風速と気温の相関を調べると正の相関が見られました。


    ▲ 平均風速と月平均雲率における各月の散布図及び相関係数


    ▲ 月平均雲率と平均風速の相関関係(7~9月)         ▲ 平均風速と気温の相関関係

    雲率が低く雲が少ない場合には、日射によって気温が上昇し、海陸間の温度差が大きくなることで海風が強まり、
    その結果平均風速が大きくなると考えられる。

     

    まとめ

    全天カメラ画像を用いて、定量的な雲率検出手法を開発すること
     HSV色空間による雲検出に加え、太陽光の影響度に応じた画像分類とエッジ検出を導入することで、太陽光による誤認識を低減した。月平均雲率は目視観測データと整合的な変動を示し、本手法の妥当性が示唆された。

    開発した手法を用いて、大学上空における雲率の季節変化および年々変動ならびに気象要素との関係を明らかにすること
    月平均雲率の季節変化
      月平均雲率には明瞭な季節性が認められ、冬は約40%前後と低く、梅雨の時期にあたる6, 7月から秋にかけては高い傾向を示すことが明らかになった。

    気象要素との関係
      湿度および気温との間には強い正の相関が見られ、湿度に関しては年間を通して一貫した正の相関(r = 0.73)が見られた。これは、本研究において、雨の場合も曇りに含んでいる影響が考えられる。
      気温については、年間を通して雲率が高い年ほど気温が低くなる傾向が見られ、特に7~9月において相関係数は-0.53と顕著であった。
      平均風速についても同様に7~9月に負の相関が認められ、風速が弱い年ほど雲率が高くなる傾向が示された。これは、本大学上空で卓越する南からの海風の影響が関与している可能性が示唆される。

    今後の展望
  • 雲量中程度画像における判別精度の向上に加え、薄雲や太陽周辺領域におけるさらなる判別精度向上。
  • 気象衛星ひまわりによる衛星画像を活用することで、目視観測よりも高精度な判別手法を検討する。
  • 夜間の雲率検出へ応用する。
  • 16時データ以外も解析を行い、雲率の日変化を明らかにする。
  • 撮影地点による雲率の変動特性について解析を行う。
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    参考文献

  • Yabuki et al. 2014. Polar Science. 8. 315-326.
  • 原朱音. 全天球画像に基づく雲量の推定.(参照:2026.1.18)
  • 石井智士ほか. 全天カメラ画像を用いた雲分布自動推定手法の検討. (参照:2026.1.18)
  • 気象庁.「気象観測の手引き」平成10年9月
  • 大平万葉. 2025:台風観測塔で得られた高解像度気象データに基づく短周期風速変動の解明.卒業論文
  • 服部未佳. 2023:横浜国立大学で観測される海風に関する考察.卒業論文
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    謝辞

     本研究を進めるにあたり、熱心かつ細やかなご指導を賜りました横浜国立大学教育学部の筆保弘徳教授ならびに筆保研究室のメンバー、そして本研究に携わってくださったすべての方々に、この場を借りて感謝申し上げます。