
全海域における台風の統計解析
廣瀬 駿
2014年 3月
1.背景および目的
台風(ハリケーンやサイクロンなど世界で発生する熱帯低気圧のことを、台風と総称する)は最も激しい気象現象のひとつであり、ひと度台風が上陸すると大きな災害が発生する。
図1.1:2000年から2011年までに発生した全台風の経路図。
@の海域では台風、Aではハリケーン、Bではサイクロンと呼ばれる。
南太平洋で発生する台風の正式な呼称は、定められていない。
左:図1-2:2011年台風12号の被災地の様子。
台風の大雨により、和歌山県と三重県の県境を流れる熊野川の堤防が決壊し、川から氾濫した大量の水が民家を押し流した。
右:図1-3:パラオ国内の様子。
台風の高波や暴風により大きな被害を受け、島内には座礁した船や、倒木が多く存在する。(2013年6月ペリリュー島にて撮影)
台風被害について考えるにあたり、各国の台風の「上陸数」は重要なその大きな指標になる。
しかし、それぞれの国で台風・上陸定義が異なることや、国境線に関する政治的問題があるために、各国の台風の上陸数をまとめた報告は存在しないのが現状である。そこで本研究では、IBTrACSのベストトラックデータと独自に作成した国境線データを用いて、各国の台風上陸数を特定し、台風上陸数の季節変化・年変化や上陸台風の特徴をまとめた。
2. 研究手法
本研究で用いる台風データは、IBTrACSである。
IBTrACSとは、NOAA(アメリカ海洋大気庁)によって2012年10月1日に公開され、世界13カ所のセンターで解析された、2011年までの熱帯低気圧のベストトラックデータである。また、台風上陸が全くないと考えられる高緯度や内陸の国以外の、55カ国の国境線データを世界地図から転写することで独自に作成した。
図2.1:国境線データを作成した55カ国の国および地域の位置(赤太線)
以上のIBTrACSのベストトラックと国境線データを用いて、1970年から2011年までの42年間の各国の台風上陸数を算出する。6時間間隔の台風トラックと国境線が交差し、交差直前もしくは直後どちらかの風速が34ノット以上であれば、「台風上陸」とみなした。
3. 各海域における台風の年間発生数
世界では年間約87個(1970年から2011年までの平均)の台風が発生している。
最も多く台風が発生する海域は北西太平洋で、年間約26.6個と全海域の約30%を占めている。2番目に多い北東太平洋は年間約16.0個、次いで南インド洋で年間約15.7個となっている。南大西洋では2004年3月、2010年3月、2011年3月に各年間1個の台風が発生している。
図3.1:全海域及び各海域の年間台風発生数。(1970-2011)
WP:北西太平洋、EP:北東太平洋、SP:南太平洋、NI:北インド洋、SI:南インド洋、NA:北大西洋、SA:南大西洋。
4. 各海域における台風の年間発生数
本研究では2年に1個以上台風が上陸する国を、「台風上陸国」と定義し、ランキング付けした。
表3.1:全海域及び各海域の年間台風発生数
台風上陸国は世界に16カ国存在し、北西太平洋に面する国々が多く名を連ねている。
1位の中国では、年間約6.9個(台湾を含む)で、台湾(約1.7個)を除いた場合でも、年間約6.5個と1位の座は変わらない。
*** 中国上陸台風 図 ***
フィリピンの東海上で発生する台風(約4.6個/年)が、南シナ海で発生する台風(約2.3個/年)の約2倍多く上陸する。
2位のフィリピンでは、年間約4.8個。上陸時の風速105ktを超える台風が全体の約20%を占め、勢力の強い台風が多く上陸している。
*** フィリピン上陸台風 図 ***
3位の日本では、年間約3.8個(沖縄・奄美を含む)、奄美・沖縄諸島の上陸数を除いた場合は、上陸数は年間約3.2個になり、順位を7位まで下げる。
*** 日本上陸台風 図 ***
4位のオーストラリアでは、年間約3.7個。インド洋側に上陸する台風(約1.8個/年)は、太平洋側に上陸する台風(約1.9個/年)のほぼ同数である。
*** オーストラリア上陸台風 図 ***
5位のアメリカは、年間約3.3個。ほとんどの台風が、北大西洋上で発生し、東海岸に上陸する。
*** アメリカ上陸台風 図 ***
6位のベトナムでは、年間約3.3個。上陸時の風速が34?47ktの弱い勢力の台風が多く上陸する。
*** ベトナム上陸台風 図 ***
7位のメキシコでは、年間約3.2個。西海岸に上陸する台風(約2.0個/年)は、東海岸に上陸する台風(約1.2個/年)の2倍近く多い。
*** メキシコ上陸台風 図 ***
8位のインドは、年間約2.1個。主にベンガル湾で発生した台風が、東海岸に上陸する。
*** インド上陸台風 図 ***
図4.1:各国の年間台風上陸数(1970−2011年)
以上の結果をもとに、各国間の上陸数の相関係数を求めた。
表4.1:日本周辺における年間台風上陸数の相関係数 。
赤:正の相関(0.30以上)オレンジ:弱い正の相関(0.20〜0.29)水色:弱い負の相関(-0.29〜-0.20)
韓国と中国、ベトナムとラオスで正の相関、中国とベトナムで弱い正の相関がみられる。
また、日本とベトナムでは弱い負の相関がみられる。
以上の結果は、過去の各国の台風被害の重要な指標となり、今後の防災について考える上で大きく役立つ情報となる。
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